第139話
三頭すべてが見渡せる位置へと移動した。
この位置から見れば、三頭が並んで見える。
まず中央に一頭……こいつが俺の方を向いて草を食んでいる。
残りの二頭のうちの一頭は中央の一頭の左後ろでこちらに
不意をつけるなら右手前にいる一頭の脇腹に苦無状の風刃を打ち込みたいところだが、この三頭の距離は十メートルも離れていない。
こちらがそんな動きをすれば間違いなく他の二頭に気づかれてしまう。
これまで倒したブルンへスタの動きを思い返すと、
ブルンへスタが馬に近いという前提なら、驚いて立ち上がったというところなのだろう。つまり、左右のブルンへスタの注意を
無防備にも後ろ脚で立っている間、奴らの胸元は俺に晒されることになるので、狙いやすいこと間違いなしだ。
やはり左右の二頭は
よし、作戦は決まった。
あとは実践あるのみだ。
なるべく音を立てずに中央のブルンへスタへと近づき、右手、左手の順にチャクラム状の風刃を投げ飛ばす。
ほぼ垂直に飛び出した風刃は、弧を描いて少しずつ傾斜しながら飛ぶと、水平になって草を刈り取っていく。
その草を刈る音に気づいたブルンへスタが立ち上がり、風刃の行方を目で追いかける。
ここまでは思ったとおりだ。
最初のターゲットとなる中央のブルンへスタは先に投げた右手側の風刃が消えた方向へと身体を向けていたのだが、自分に近づいてくる音に気づいたのだろう――反射的にこちらへと顔を向ける。
馬の視界というのはとても広く、三五〇度も見えているというからな。
ブルンへスタが馬に似た魔物というだけで、その視野の広さまで同じかと言われると確かめようがないのだが、飛んでいった風刃へと顔を向けていても、俺の動きは見えているのだろう。
しかし、ブルンへスタは立ち上がったままでは身体の向きを簡単には変えられない。左右の後ろ脚を何度か踏み変えて向きを変えざるを得ないのだ。
立ち上がったままなのは、俺が飛び込めばそのまま踏みつけ、止まれば走り出して体当たりを食らわせるつもりなのだろう。
だが、その間ずっとこいつは俺に弱点を晒し続けているのだ。
右手に苦無のような形をした魔力の刃を生み出し、中央のブルンへスタの胸に狙いを定め投げつけるのだが、運悪く振り下ろされた前脚の蹄に当たってしまった。
中央のブルンへスタは大きな
前脚を地に下ろすと共に駆け出し、俺に向かって突進してきた。
俺がそれを左に飛び込んで
俺に目掛けて突っ込んできたのは正面にいた中央のブルンへスタだけではなかったのだ。右手前にいたブルンヘスタも
受け身を取って姿勢を整えると正面へと目を向ける。
左奥にいたブルンヘスタもこちらに向かっているかも知れないからだ。
そしてその予想は見事に的中する。
ほぼ十メートル……左からやってきたブルンへスタが俺に体当たりをするべく近づいてきてる。
「――クッ!」
一瞬で避けるなんてことはできないと判断すると、正面に見える空間――前から突っ込んでくるブルンへスタの両前脚の間に身体を捻りこむようにダイブし、腰のナイフを抜き去って胸に突き立てる。
その勢いでナイフが抜け、俺は数メートル先まで放り出された。
地鳴りのような音が聞こえると同時、俺は生い茂る背の高い草の中へと飛び込み、受け身を取る。
大量の草が見事にクッションになってくれて、ダメージは殆どない。
だが、俺にナイフを突き立てられたブルンへスタは前転の勢いでナイフが抜けるときに胸元を大きく引き裂かれたようだ。
肺に穴が空いてしまうと空気を吸おうとしても肺が膨らまない。
興奮状態に五十メートル近く走ってきた直後というのもあって、完全に酸欠状態というやつだ。
このまま放置しても息ができずに死ぬだろう。
次に激突した二頭へと目を向ける。
馬に似た習性があるなら立ったまま寝るだろうし、寝転んだ状態から立ち上がるのに慣れていないのだ。
何も考えずに突っ込んできたのが悪い……と説教してもはじまらない。
再び右手に苦無状の魔力の刃を作り出し、二頭のブルンへスタの胸に投げつけると、俺は空に浮かんでるミミルへと目を向けた。
見ようと思ってるわけではないんだが……見えてしまうよな。
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