第138話
二頭のブルンへスタの距離が近いと、一方だけに攻撃を仕掛けても二頭同時に反撃をしてくる可能性があったのだが、運良く一頭が動いてくれた。
一対一で戦うのなら、ミミルの戦法をそのまま採用することができたので、比較的容易に対処できたと思う。
ただ、ミミルが言っていたとおり魔力を込めずに投げた
二頭のブルンへスタを倒し、また肉が一つ手に入った。
恐らくサーロインにあたる部分だろう。
耳や脚の太さなどは違うが、このブルンへスタはやはり馬に似ている。
肉の色や持ったときの質感は、もう上質な馬肉そのものだ。
ダンジョン内では微生物は発生し得ないということなので、生食しても腹を壊すことはないに違いない。
九州の甘い醤油に、たっぷりの生姜とニンニク、ネギなどの薬味を載せて刺し身で食べてみたいところだが……醤油など持ってきていないのが悔やまれる。
さて、他のドロップ品は尻尾。ミミルに訊くと、服の芯が必要になれば使う素材らしい。そういえば、英国産のスーツは馬の毛で作った芯を入れると聞いたことがある。特に馬の尻尾を使ったものはバス芯と呼ばれて高級だとか……エルムヘイムでも似たような用途に使うのだろう。
その後、ミミルの指示により東へと向かう途中に接敵するブルンへスタを淡々と倒していく。
そっと近づき、その胸をめがけて苦無の形をした風刃を投げつけるだけという単純作業だ。とても大きな魔物だというのに、簡単に倒せるところを見ると、本当に弱点なんだろう。
〈油断はするなよ。いまは単に一頭ずつ倒せているだけだ。ブルンへスタは群れをつくる習性があるから、一対多での戦闘を余儀なくされることもあるぞ〉
〈ああ、そうだな。気をつけるよ〉
十頭ほど倒したところでミミルからの忠告がやってきた。
最初に遭遇した三頭以外、今のところは纏まった数のブルンへスタに接触してはいないのだが、一頭ずつ接触するにしてもその間隔が時間的にも、距離的にも短くなっている気がする。
更に二頭ほど倒して前に進んだところで、今度はまた三頭が密集して草を食んでいるのが見えた。
〈三頭くらいならしょーへいだけで倒せるだろう。見物させてもらうとしよう〉
〈おいおい、そんな簡単なものじゃないだろう〉
最初にチャクラム状の風刃を投げて気を逸らせることは可能だ。
三頭がまとめて風刃の飛んで行った方向へと動いてくれるのはありがたいが、その後に投げる
〈しょーへいは、まだ……いや、今はやめておこう。とにかく、三頭をまとめて相手するように――フロエ〉
ミミルは言いたいことを言うと、背中に翼をつくって空へと舞い上がった。
まぁ、上空から見守られているというのなら安心だが、それでも巨大な馬のような魔物を三頭同時に相手するなど、無茶を言う。
『そこから先を抜ければ野営地に着く。グズグズしているといまの場所で一夜を過ごすことになるぞ』
なんということだ。
ここから引き返すとなるとまたキュリクスの領域を通って戻らなければならないし、時間的にも二時間以上はかかる。
さっき見つけた安全地帯らしき場所も、夜になるとどうなるのかはわからない。恐らく、川の中州にあるという安全地帯の方が安心だ。もう目の前にいる三頭のブルンへスタの先へと進むしかない状況になっている。
「くそっ……」
別に
だが、このまま何もしないというわけにはいかない。
草よりも低い位置に頭を下げた状態で音波探知を使う。
三頭までの距離は、約四十メートルといったところ。それぞれの音像は頭を下げた状態で脳内に浮かび上がるので、まだ草を食んでいるのだろう。
この高さの草だから、あれだけの巨体を維持できる量を食べられても減ることがないのかも知れないな――いや、魔素でできた草を食べることで、ブルンへスタやキュリクスは身体を維持しているということか。あれだけの巨体だと燃費も悪いだろうから、この推測もあながち間違っていないのかも知れないな。
前方の草を掻き分けながら前へと進む。
結構な重労働のはずだが、意外に疲れることがない。
俺の体力が上がっているということだろう。
三頭のブルンへスタがいるところまで
馬は比較的臆病な性質を持っているが、ブルンへスタは馬に似た感じの魔物であって、馬ではない。
その証拠に、
俺はそっと草の上に頭を出してブルンへスタを観察する。
まだ三頭は草を食んでいるようだが、最も手前にいるブルンへスタが他の一頭をその巨体で隠してしまっている。
さて、この場合はどんな戦法で戦うべきか……。
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