第137話

 魔石の属性については以前少しだけ話を聞いている。

 確か、クロハネコオロギを倒したりしていた時期だったと思うが、ミミルに魔石の色について訊ねたところ、色によって属性が違うという返事が返ってきたはずだ。

 その時は「また詳しく教えてくれ」といって会話が終了した気がする。


 これはいい機会だ。

 ダンジョン第二層での活動は五日間もかかるので、時間は十分にある。

 これを機会に色々と教えてもらうのも悪くない。


 俺は次の獲物を探して歩きながらミミルに確認する。


〈さっきの魔石も琥珀色で土属性だと思うんだが、これは何ができるんだ?〉

〈金属のような特性をもたせることができる。技能カードを作るのに使ったのを覚えているだろう?〉

〈ああ、そう言えば使ったな……〉

〈他にも基本的な魔道具の動作をさせるために使うことが多い。綿打ちをする魔道具などにも使用している。といっても、風を扱う魔道具は風属性、水を使う魔道具には水属性、火の場合は火属性を使うという原則があるが、土属性はその中でも汎用的な用途――軸を回したりするような動作をさせるためにも使う〉


 ミミルの説明によると、魔道具を持たない以上、俺がこの魔石を持っている意味が無さそうだ。

 確か、ミミルは棉の花を取ってきて機械に放り込んで何かを作っていたから、魔道具を持っているんだろう。

 ここはミミルに持ってもらうのがいいんだろうな。


〈だったら、俺には必要ない気がするんだが……〉

〈このままだとそうだろう。だが、魔石はチキュウならデンチみたいなものだ。魔道具を作ることができればチキュウでも使用できるぞ〉


 言われてみれば、魔石は電池のようなものだ。

 エネルギーの塊のようなもので、それを活用すれば電池の代わりに使えるかも知れないし、モーターや内燃機関のような使い方ができるのかも知れないが……。


〈その魔道具を作れるほどチキュウ人は魔石のことを知らないからなぁ……〉


 魔道具作成など完全に俺の専門外だ。

 そもそも俺しかダンジョンの存在を知る地球人がいないのだから、他の地球人は魔石の存在など知る由もないし、研究もしていない。


〈私の方でも考えておくが――話がれているぞ。ブルンヘスタの倒し方だが、わかったか?〉

〈うーん、致命傷は胸に刺さった風刃ってことはわかる〉

〈そうだ。ブルンへスタは肺が弱点だ。肺に穴を開ければ、一〇数えるうちに動きが鈍り、二〇数えるうちに動けなくなる〉


 確かにミミルが倒したブルンへスタへの初撃は一つが喉、一つが胸を狙った風刃だった。

 周囲に背の高い草が生えていても、ブルンへスタの巨体なら魔力探知であっても狙いをつけ易い。それに、傷の様子を思い出すと、それなりに貫通力が高く、太い風刃だったはず――投げナイフや苦無くないのようなものを作って投げたんだろう。


〈なるほど。理解した〉

〈では、まだそこに二頭いるから試してみろ〉


 試すのは構わないが、俺の風刃はチャクラムのようなものをイメージしている。ミミルの投げた風刃のように貫通力が高いものを作り出さないと厳しい。


 俺は右手に苦無を持つイメージをしてみる。

 手のひらには魔力膜のようなものができているのを感じると、試しに地面に向けて投げてみる。


 地面に何かが突き刺さる音がすると、そこに菱形の穴が開く。

 イメージした通りの大きさ――縦に四センチ、横は二センチほどで、ミミルが投げた風刃がブルンへスタにつけた傷と大差がない。


〈何をしている?〉

〈イメージ通りのものができているか確認したんだよ〉


 俺が突然振りかぶって地面に向けて何かを投げつけたものだからミミルも不審に思ったのだろう。

 そういえば、魔力視というスキルをミミルから教わっていたのだった。確か「魔力を見ることができる薄い膜を通して見る」とミミルは言っていたはずだ。基礎的な技能だから名前を付けなくてもいいと判断したから忘れてしまっていた。


〈ああ、そういうことか。仕方ないな〉


 ミミルも俺の事情というのを理解してくれたようで、地面にできた菱形の穴を見て頷いている。

 この様子だと俺が使おうとしている苦無くないでもブルンへスタには有効だと認めてくれたのだろう。これで挑むことにしよう。


〈じゃ、行ってくる〉

〈投げる力に応じて貫通力は上がる――そのことを忘れるなよ〉


 ミミルが今頃になって大切なことを言い出したが、運動エネルギー量は質量と速度の積で表される。

 ミミルが言う「投げる力」というのは投げるときに込める力……魔力量のことを言っているのだろう。つまり、風刃の持つエネルギー量は込めた魔力量と投げる速度に比例するというこということだ。


 ミミルに「わかっている」と手をひらひら振り、二頭のブルンへスタに向かって音を殺して進み、そっと頭を草叢から出してみる。

 一頭は完全に俺に尻を向けている。そしてもう一頭は運悪くこちらへ頭を向けていた。


 二頭同時に相手にするか、一頭ずつ倒していくか……リスクを考えたら絶対に後者なのだが、如何せん二頭の距離が近すぎる。


 さて、どうしようか……。

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