第十四章 第二層攻略開始
第131話
想定外のパンを買わされた後、別のパン屋をもう一軒だけ立ち寄り、食事パンをある程度確保したので自分の店に戻った。
外食で済まそうと思っていた昼飯だが、ミミルが「時間がもったいない」と言うので諦めた。本音で言うなら、自分の店の近所で毎日食べ歩いて挨拶回りをしたかったのだが、それはスタッフが入ってきてからだ。
店が忙しくなるまではミミル優先と決めたからな。
いま、二階の居室ではミミルが着替えをしている。
その間に俺は更衣室で着替えを済ませ、事務所部屋でパソコンを使ってメールを打っていた。
以前働いていたスペイン、アンダルシアの店――リストランテ・ゲルラに電話しようと思っていたが、昨日はなんだかんだとできなかったからだ。
日本語のキーボードではスペイン語入力の方法がよくわからないので苦労したが、二十分ほどかけてメール送信できた。
内容はシンプルな近況報告だ。
〈ここにいたのか〉
〈ああ、着替え――終わったんだな。じゃあ、行くか〉
少し気合を入れてミミルを誘う。
これからダンジョン内時間で最低五日はかかる第二層の攻略をするのだから、気合も入れたくなるというものだ。
◇◆◇
ダンジョン第二層に到着し、入口部屋から階段を上ると快晴の空が迎えてくれた。
この第二層の太陽――に該当する何かは、ここ数日の経験から見て正中に達しているようで、強い日差しにヒリヒリと肌が焼かれる感覚を覚える。
ふと左隣を見ると、ミミルが少し険しい顔をしてこちらを見上げている。
〈おい、先に昼食だろう〉
〈あ、そうだったな〉
地上で昼食を食べようとしたが時間がもったいないと言われてダンジョン内で作ることにしたのだった。
地上で二時間過ごせば、ダンジョン内ではほぼ一日が過ぎてしまう。パンを買いに歩き回るのに一時間ほどかけていたので、そこから食事を済ませるとダンジョン内の一日分を無駄にすることになるからな。
さて、この祭壇上になった場所なら魔物も近寄ってこない。
青空の下で食べるのも良さそうなのでここで調理してしまうことにする。
これからダンジョン内時間で最低五日間、使い勝手がよくわからない簡易コンロを使って調理していくことになる。絶対に練習しておくほうがいいので、早速簡易コンロを使うことにしよう。
まぁ、先ずは荷物を全部広げて出してみないことには始まらない。
〈ミミル、今朝届いた荷物を出してくれるかい?〉
〈ふむ〉
ミミルは小さく頷くと、今朝届いた荷物を空間収納から取り出し、祭壇の上に並べた。
簡易コンロが二つ、ダッチオーブンが二つ、鍋、フライパン、焚き火台、折り畳めるバケツ、テント、タープ、ランタン、折りたたみ式のテーブル、椅子……等々といろいろ買ったものだ。
もちろん、この中にはミミルが欲しくて持ってきた携帯用のおしり洗浄器まである。
ひとつずつ中身を確認して、いま必要なものだけを残していく。
キャンプをするならテント、タープを張ったりすのだろうが、今回は昼食が目的だから、簡易コンロとテーブル、椅子、鍋とフライパンだけを使うことにした。
食材はミミルも作るのを手伝ったラビオリにしてやりたいが……あれは少し贅沢な気分になるので、夜にしよう。
ミミルに頼んで収納してもらった食材を出してもらう。
いまから作る料理をミミルはきっと気に入るはずだ。
パスタ生地は丸めた状態のままなので、テーブルの上に生地を置き、麺棒で生地を平らに伸ばしてから、木製のパスタカッターを使って麺状に切っていく。
このパスタカッター――形状的には麺棒に溝が入ったものだ。その溝が丸いものだと、麺も断面が丸くなる。今回は四角い断面になるタイプを使い、三ミリ幅で麺にする。
あとはソースを作りながら湯を沸かす。
当然、水は鍋の上に俺の魔法で出したものだし、簡易コンロに
まず、ベーコンを拍子木に切る。
続いてボウルに卵黄だけを入れ、そこにたっぷりとパルミジャーノ・レッジャーノを削り入れて混ぜ合わせておく。
卵白は別の料理に使えるので、皿に入れてミミルの空間収納に仕舞ってもらう。
ダンジョン内でジェラートやケーキ作りをするのは難しいだろうが、戻ればいろんなことができるからな。捨てるのはもったいない。
オリーブオイルを入れて馴染ませたフライパンに拍子木切りしたベーコンを入れて炒めるが、薪で焼くのは火加減が難しい。
少し炒めると、表面が軽く焦げてきて燻製の香りが漂ってくる。
これが食材の出すサイン。白ワインを入れて香りと旨味を閉じ込めてしまう。
お湯が沸騰したら麺を入れ、浮き上がってくるまでにフライパンへ茹で汁を加えて混ぜ合わせ、塩を加えて味付けを調整する。このあと入れる卵液にチーズの塩気があるので少し弱めだ。
茹で上がったパスタをフライパンに入れて混ぜ合わせたら、そこにボウルの卵液を入れて和える。
最後に皿に盛り付け、粗挽きの黒胡椒を散らせば完成だ。
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