武器新調(1)
王都フィオンヘイムにあるそこそこ大きな屋敷。その浴室で湯に浸かって何やら思案顔をしているのは、ミミルの妹――フレイヤである。
ミミルと同じ顔、銀色の髪、透けるような白い肌をしているが、その瞳は透き通るように青く濃い瑠璃色。一卵性双生児であり、アルビノの体質を共有しているミミルとの違いは、この瞳にある。
――姉さまがいないなら、私がしっかりしなければいけませんわ
七日というのは長いようで短い。
ミミルを捜索しなければならないという義務感にも似た気持ちは、ただ王都へと移動するしかできない自分自身に焦燥感となって積み重なっていた。更に、百年の時を共に過ごしたミミルを失った悲しみは七日程度で薄れることはなく、
ただ、最初の二、三日はティルやローネが気を配っていなければ自分を見失うほど荒れていたフレイヤだが、七日も経てば冷静さを取り戻していた。
――まずは、新しい剣を作らないといけませんわね
ミミルが帝国側ダンジョンで行方不明になったとき、激情に任せて叩きつけた愛剣、ウォルフレイム。
それほどの名剣を歪め、刃を砕いたフレイヤの力も相当なものだ。
小一時間ほど湯に浸かったフレイヤは、浴槽を出て身体を布で拭き取ると、浴室を後にした。
風呂から出たフレイヤを待っていたのはドロテアと一人のメイドである。
「食事の用意はできております」
「そう……」
考え事をしているフレイヤは、ドロテアの声を聞いているのか不安になりそうなほど力のない返事をした。
二人に家着を着せられると、フレイヤはドロテアと共に食堂へと足を向ける。廊下を歩きながら、フレイヤの数歩後ろを歩くドロテアが沈黙を破るように口を開く。
「その、ミミル様は……」
長年仕えている主を気遣う気持ちをドロテアは抑えきれなかった。
フレイヤは妹であり、誰よりも気落ちしていることはドロテアに理解できるだけに、叱られることを承知の上で尋ねるからだろう――とても
「姉さまは必ず見つけ出します。あなた方はここでその日をお待ちなさい」
「はいっ」
だが、フレイヤの決意が
食堂には長辺が十メートル、短辺が三メートルほどある大きなテーブルがあり、来客用なのか凝った装飾がなされた椅子がずらりと並んでいる。
フレイヤが上座の席に着くと、料理が次々と運ばれてくる。
先ずはダンジョンに棲むロッドスヴィンという赤毛のイノシシに似た魔物の肉を、これまたダンジョン内で採れた根菜や葉野菜と煮た料理が供される。地球で言えばポトフやコシード、スペッツァティーノに近い料理だ。
全ての食材から出た旨味が溶け出したスープとクタクタになるまで煮込んだ野菜、スプーンでホロリと崩れるほど柔らかく煮た赤身肉、見るからにフルフルと柔らかそうな脂身がゴロゴロと皿の中に転がっている。
続けて供されるのは肉料理。
同じくダンジョンで捕れるホルンカニンの肉を塩と香草で香り付けして焼いたものだ。なお、ホルンカニンは念話で翻訳され、「ツノウサギ」と将平に伝わっている魔物である。
他には海で取れた魚を塩焼きにしたもの、魔素に耐えられる酵母を使って焼いたパンなどが並ぶ。
――味気ない。
出された料理はいつも食べ慣れているものばかりだが、違うのは……。
この食堂で食事をするときはいつも
目頭が熱くなるのを感じると、フレイヤは宙を見上げて目を
「食欲がありませんわ。明日からは部屋で食事を摂ることにします」
食事もそこそこにフレイヤは席を立つ。
ミミルとの思い出がたっぷり詰まった家で、思い出のたっぷりつまった食事を摂る……それに耐えられないのだ。
「畏まりました」
ドロテアが返事をすると、他のメイドたちも頭を下げる。
統制がとれたメイドたちの動きを横目に、フレイヤは地下室へと向かう。
階段を下り、扉を開くとそこはミミル、フレイヤが共用する作業部屋だ。
整然と並べられた各種道具、恐竜の皮を広げて作業ができるほど大きな作業台、色鮮やかな液体が詰まった様々な大きさの
フレイヤはまっすぐその扉に向かい、大きく重たいはずの鉄の扉を事も無げに開くと、中へ入る。
壁一面に銅、鉄、錫、亜鉛……そして各種希少金属のインゴットが並んでいた。
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