第99話
ミミルはキュリクスたちに無数の
自分でもその威力に驚いているのだろう。
暫くすると、両拳を握りしめ、全身をプルプルと小刻みに震わせた。
〈す、すごい……〉
数秒経って実に感慨深そうな声を絞り出すと、俺の方へと顔を向けて満面の笑みを見せる。そして、胸元で小さな手で握り
〈やった、やったぞ!〉
そのまま万歳して、両手を挙げたまま胸元に飛び込んでくるミミルを受け止める。
そのまま俺に抱えられるようにして一回転したミミルは浮かんでいた両足を地面に着くと、更に両手に力を込めて懐から俺を見上げる。
〈こうして成功したのもしょーへいのおかげだ。いろいろと助言してくれてありがとう〉
電気に関することは、地球で俺と暮らしていく上で必要な最低限度の知識。ミミルに教えたのは俺の都合でしかない。最初に静電気や簡単な電撃を作ってみせたのも、実際に見せて理解してもらうのが一番の近道だと思ったからだ。
その内容を理解し、自分なりに研究して大規模な雷魔法へと進化させたのはミミル自身だ。
〈俺は地球で暮らすための知識を教えただけだよ。おめでとう……〉
頬を擦り付けてくるミミルの頭に手を置いて撫でる。
なんだか気持ちよさそうに撫でられていたミミルだが、ピクリと一瞬動きが止まると今度はグリグリと額を押し付けてきた。
余程嬉しいのだろう。
〈貸しひとつだな……〉
ぽつりと恥ずかしそうに零し、胸元から離れるとくるりと背を向け、雷で蹂躙した現場へとミミルは歩き出す。
何に対して「貸しひとつ」なのか理解できないのだが、遅れると何やら怒られそうな気がして、数歩後ろを追いかけた。
ミミルの放った範囲型雷魔法は規模が大きかったので同時に何体のキュリクスを倒すのに成功したのかわからない。黒焦げになってすぐに霧散してしまったからだ。霧散する際、魔物は魔石をドロップするのでその数で確認するしかない。
ミミルと共に魔石とドロップアイテムを回収しながら歩くと、魔石が落ちていたのは直径約四〇メートルほどある円の中に収まっていた。拾った魔石の数は二三個と、なかなか多い。キュリクスという魔物は草食性で集団行動するタイプの魔物のようだから、これだけの数が取れたというのも不思議ではなさそうだ。
〈くそっ……〉
〈どうした?〉
〈キュリクスがひとつも肉を落としておらんのだ。二十三頭も倒したというのに一つも……〉
ミミルは少し涙目だ。
確かにドロップしていたアイテムは
〈そりゃ残念だったな。次は俺が魔物を倒す番でいいか?〉
〈も、もちろんだ。しょーへいには経験を積んでもらいたいからな〉
〈よしっ〉
さっきまで練習していた風刃の実践ができる。最初はできるだけ一頭ずつ相手をしたいところだが……。
周囲を見回すが、キュリクスの姿が見えない。
夜中に祭壇の上から赤外線を使ってキュリクスを見た時、割と体高のある牛のような体型をした魔物だと感じた。見渡せば周囲に生い茂る草よりも高い位置に頭が見えるはずなのだ。
〈こりゃ、落雷の音を聞いて逃げたかな?〉
近くに落雷したときの音は、他に例えようもないほどの大音量だ。その音が
ミミルの雷魔法は雲の高さから落ちてくるものではないにしろ、空気を切り裂くような
〈む……それは悪いことをした。あちらにならいるはずだ〉
〈そうだな……〉
ミミルは祭壇の方を指さす。
他の方向でもキュリクスはいるだろうが、祭壇周辺にはキュリクスしかいないのであれば、反対側にはいる可能性が高いのは間違いない。
ただ、祭壇をつくる石段の高さを考えると、それを登る体力も必要だ。体力を温存するためには、祭壇の周辺を回り込んで行くほうがいいように思う。
〈こっちに行ってみよう〉
〈む、まあよい……〉
ミミルの提案を蹴る形になってしまったが、祭壇に向かって右方向――反時計回りに歩いて反対側へと向かうことにした。
空は相変わらず青く、雲ひとつ見当たらない。
こんな好天だというのに突然雷に打たれたことを考えると、少しだけだがキュリクスが不憫に思えてくるから不思議だ。
五分ほど歩いていると、
まっすぐに伸びた
さて、気配をなるべく落として近づくことにしよう。
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