第98話
俺が投げた円形の風刃を見たミミルが近づいてきた。
〈終始見ていたが、初めて投げた風刃で成功するとは……しょーへいは
〈いやいや、これまで魔力弾で練習してきた内容に似ていたからじゃないかな〉
〈いや、魔力の刃を円形にすることは私も考えたのだが、あそこまで上手くいかなかった。しょーへいが投げたものを見て、私が試したものとは刃の形が違うことがよくわかった〉
ただ円形にした魔力の刃では浮力が生じないと思った俺は、少し刃に傾斜をつけておいた。それによって、投げた直後は地面スレスレで滑空し、浮力を得て丸太椅子の直前に浮かび上がるような軌道を描いたのだ。
そもそもが重量があるかないかわからない魔力でできた刃だから、実際のチャクラムでは重くて難しいフリスビーのような動きを実現することができる。
それにしても……。
〈ミミルには俺の投げる風刃が見えるのか?〉
実のところ、俺にはミミルの風刃が見えないし、俺自身の風刃もイメージに魔力が少しずつ霧散して散る粉のようなものが無ければ見えなかっただろう。
〈ああ、魔力視という技能がある。訓練すれば見えるようになるぞ〉
〈そういうのは先に教えてもらいたかった……〉
俺はガクリと肩を落とす。
実際にミミルがどのようにして魔法を使っているのかを知るには、魔力の動きを観察できれば楽なはずなのだ。
〈ふむ……どうしてだ?〉
〈俺にはミミルが投げる風刃は見えないからさ〉
〈そ、そうだったのか。すまない……〉
ミミルは申し訳無さそうに眉尻を下げ、少し
よく見ると口先が尖っているので、「だって、気づかなかったんだもん……」などと小声で言っているのかも知れないな。
やばいな……可愛すぎる。いや、あざといというべきか。
〈あとで教えてくれるか?〉
〈か、構わないが……殆どの魔物は魔法は使わないからな。あまり役には立たんぞ?〉
魔物が魔法を使わないとは言うが、魔力視があれば魔力があるものが見えるようになるんだろう。今後もミミルの魔法を手本にしていきたいから、今のまま見えないというのは困る。
それに、今までは超音波で魔力探知をしてきたが、例えばファンタジーでも定番のゴーストのように実体がないものは超音波で探知するのは難しい。このダンジョン内にそんな魔物がいるか知らないが、もし同じように超音波では探知が難しい魔物がいるなら、他の手段で探知できる方が俺にとってはありがたいんだ。
〈俺としては全く問題ないぞ〉
〈そ、そうか。では――〉
ミミルは顎に手をやって考えるような仕草に入るが、すぐに結論が出たようで、
〈――明るくなってきたことだし、雷の威力を試したい。まずはキュリクスで肉……雷魔法の威力を検証しなければならん〉
明らかに肉を集めたいという雰囲気が
いや、別にあのキュリクスの肉を食べたいのなら焼くのだが、まだ薪コンロが届いてないからここでは難しい……。そういえば炭火で焼いた肉は美味い……炭火グリルも買えば良かったかもしれないな。まぁ、追加で買う分にはネット通販で充分だろう。
ミミルはすでに階段を上がろうとしている。
雷魔法を試したくてウズウズしているのか、それとも追加でキュリクスの上質な肉を手に入れたいと思っているのか……イマイチよくわからないが、やる気は見るからに満々といったところだ。
〈何をしている。行くぞ!〉
〈――へいへい〉
ミミルに急かされ、そそくさと後を追う。
階段の上には真っ青な空が広がっているのが見える。朝焼けは雨の前兆というが、本当に雨が降るのかと疑いたくなるな。
一段とばしで階段を上りきると、ミミルが草原に向かって祭壇から下りていくのが見える。その先、四〇メートルほど先に見えるのはキュリクスの群れだ。
慌ててミミルを追いかけ、祭壇を下りてミミルに追いついた頃には射程圏に入っていたらしい。
〈――オグソール〉
ミミルが小さく呟く。
刹那、草原で草を食むキュリクスの頭上高く――祭壇で練習していたときよりも高い位置から無数の
轟音の波に飲まれると、重いパンチを胸元に食らっているような衝撃が身体の芯にまで届き、心まで震えてしまう。
雷が落ちた場所に目を向けると、黒焦げになったキュリクスが倒れ、次々と霧散していく。
こんなに焦げたのに食える肉がドロップするんだろうか……。
逆に最初から黒焦げになった肉しかドロップしないとなるとミミルが暴れだしそうで少し心配になってくるが――まぁ、大丈夫だろう。
それにしても、魔法の範囲が広くて強い。
こりゃ、何頭のキュリクスを倒したのか数えるのも大変そうだ……。
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