第96話
朝食は祭壇状になった建造物の上で摂ることにした。
ミミルにお願いして、食べるものを出してもらうことにしよう。
〈ミミル、食べものはどんなものが入ってる?〉
〈ちょっと待て……〉
ミミルは空間収納から食べ物を次々と取り出す。のり弁当、チキン南蛮弁当、焼肉弁当、釜揚げシラス弁当等の各種弁当から順に、コンビニおにぎりや菓子パンの類、ツノウサギのディアヴォラが出てくる――ツノウサギはさすがにかなり量が減っている。
とりあえず、今から食べるのは朝食だ。軽く食べれば足りるだろう。
〈で、大きくなる食事はどれだ?〉
〈先ずは好き嫌いせずに何でも食べることなんだが、この中だと……〉
並んだ中で豊富なカルシウム、ビタミンDもあって吸収を助けてくれる効率的なものは……。
〈これだな。釜揚げシラス弁当――カルシウムたっぷりだし、ビタミンDも含まれているからな〉
〈ほう、これか……〉
ミミルは釜揚げシラス弁当を手に取ると、蓋を開けて中身を確認するように見つめると、怪訝な顔をして俺を見上げる。
〈ごはんがないぞ?〉
ちらりと弁当を見てはいたが、改めて中身を確認する。
弁当箱の半分ほどをふっくらと白く炊きあがったシラスが埋め尽くしていて、他にイカの天ぷら、根菜の炊いたん、玉子焼きなどが並んでいる。釜揚げシラスだけでは寂しいが、具合良く炊けたニンジンの赤、卵焼きの黄色、バランや葉物野菜の緑が彩りを加えていてとても美味しそうだ。
〈その白い小魚がシラス。その下に入ってるよ〉
〈ふむ……〉
〈俺はこれを貰うぞ〉
俺が手にとったのはのり弁当。
おかかの上に真っ黒な海苔。その上に横たわる茶色い白身魚のフライ、黄金色に揚がった竹輪。
ミミルは期待に満ちた目で釜揚げシラス弁当の蓋を開け、くんくんと匂いを嗅いでいる。決して行儀が良いと言えることではないが、この世界で初めて食べるものなのだから仕方がないだろう。
俺は付属のタルタルソースを白身魚のフライに絞りかけ、箸で摘んでガブリと齧りつく。
揚げ物の香りが口いっぱいに広がり、ホカホカと暖かい魚の身がホロリと歯に触れて崩れる。やはり揚げ物とタルタルソースの相性は素晴らしい。
ミミルはというと、パクパクと野菜の煮付けを口に放り込んでいる。
口いっぱいに野菜を入れて、もぐもぐと噛む姿は何度見ても小動物のようで愛らしい。そして、少しずつ口の中のものを飲み込むと、シラスの山を見つめて数秒の間、黙考している。
どうかしたのかと俺が心配し始める頃、ミミルはふわりと柔らかいシラスの山に箸を突っ込み、ごはんと共に頬張った。
特に念話で何かが飛んでくることはないが、この食べっぷりを見る限り気にいったようだ。釜揚げシラスの効果があるといいな。
そういえば、ミミルなら五つの
確認した方がいいだろうな……。
〈そういえば、魔力砲だったか……ある程度使えるようになったんだが、四つ数える間に五発撃てるようになってきたんだけど、どう思う?〉
〈どう……とは?〉
なんというか……自分ではまだ速度が足りない気がするせいか、
もう少し具体的に言うなら、そうだなぁ……。
〈複数の魔物を相手にするのに充分な速度かどうか……ってことだな〉
〈そうだな――魔力砲だと現実的には三体までだろう。それ以上は風刃を使うべきだ〉
〈――へ?〉
いや、俺なりに頑張ってコラプスを練習してきたのだが……あまり意味がなかったってことか……。
確かにミミルが三体以上を相手にするときに魔力砲を使っているのを見たことがないな。明らかにミミルではなく俺に向かってやってくる魔物に対してだけ使っていた気がする。
〈そこまで練習したのなら、次は風刃を覚えるといい〉
〈ああ、うん。わかった〉
そういえば、ミミルは魔力砲を魔物を気絶させるために使っていたはずだ。そして、肉がドロップしなくて狂ったようにツノウサギを狩っていたときは風刃を使っていた。
では、俺にとってコラプスとは……。
〈無駄な練習だったのかな……〉
肩を落としてポツリと呟く。
ミミルには聞こえているはずだが、いまはイカの天ぷらと格闘中のようだ。噛むのに時間がかかっている。
小さな顎で噛んでいると疲れるだろうな。
『まりょくせいぎょ、れんしゅう。やく、たつ』
ミミルが真っ直ぐ俺を見つめ、念話で伝えてくれる。
そうだな。魔力制御のいい練習になったと思えばいいか。
〈じゃ、風刃を教えてくれるかい?〉
〈うむ。夜も明けたことだし――それもよかろう〉
ミミルは俺の問いかけに返事をすると、シラスたっぷりのごはんを口に頬張った。
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