第95話
丸太椅子に改良したコラプスを打ち込むことに成功した俺は、その後も数回試行してすべて成功した。
いままで指先に作った魔力の塊に別の魔力をぶつけて弾き飛ばすということに気を取られていたのが悪かったのだろう。
魔法は想像し創造するもの。
改めて認識する良い機会になったと思う。
いまでは最初の想像さえ
とりあえず自由にコラプスを打てるようになった。次はどの程度の間隔で打ち続けることができるか確認するとしよう。
適当な間隔に丸太椅子を置く。まずは五個からだ。
腕を真っ直ぐ伸ばし、最初の丸太椅子に照準を合わせてコラプスを放つと、次のターゲットへと指先を向ける。
瞬時に狙いたい場所――
だが、正確に指先が
五個の丸太椅子に当てるのに三秒もかからない。だが、五個の丸太椅子のうち、二つは跳ね上がることなく、ほぼ元の場所に立ったままだ。射線を曲げたことによって斜めから丸太椅子に当たるので力が逸れてしまうのだろう。
「ううむ……」
腕を組み、唸るように声を絞って考える。
転がった丸太椅子をまた無作為に並べ、距離をとる。
ミミルの攻撃を見ている限り、十メートルを超えると威力が落ちて霧散するのは変わらないはずだ。すべての丸太椅子が半径十メートル以内に収まるよう、立ち位置を決める。
今度は的を狙うのではなく、射線が必ず丸太椅子の中心に抜けるように当てればいい。
地面に転がった丸太椅子に向け、右手の人差し指を向ける。
魔力の塊が渦を巻くように続くトンネルを抜け、丸太椅子に当たるイメージを浮かべてまずは一発……指先に作った魔力の塊を弾き飛ばす。
直ぐに向きを変えて視野の端に映る丸太椅子に向けて指先を向け、その先に新たに魔力の塊が飛んでいくトンネルをイメージする。
だが困ったことに首を捻る時にイメージしたトンネルの先がズレてしまう。このまま次弾を発射すると思うような成果がでない。冷静にイメージを修正し、次弾を放つ。
コラプスが当たって跳ね上がる丸太椅子を横目に。三発目、四発目、五発目とイメージを修正しつつ、魔力の塊を弾き飛ばしていく。
五秒後、地面に転がった五つの丸太椅子を眺める。
威力は満足できるものになったが、
「一匹に一秒か……」
思わず声が漏れる。
恐らく、俺は苦虫を噛んだような顔をしていることだろう。
こちらが動いているとはいえ、いまは動かない丸太椅子を使っている。
しかし、実際に魔物を相手にコラプスを使う時は、自分がその魔物に襲われるときだ。魔物は待ってくれない。
コラプスの射程距離は十メートル程度――魔物が五匹現れたとして、コラプスが全ての魔物に当たるよりも先に俺は魔物の攻撃を食らっていることだろう。これでは使い物にならない。
先ずはこの丸太椅子でどれだけ時間短縮できるかだな……。
◇◆◇
気がつくと階段の上に見える空がぼんやりと明るくなっていた
コラプスの時間短縮に集中していたので感覚では二時間程度しか経っていないと思っていたが、スマホの時計表示を見るとダンジョンに入ってから五時間ほど経過していた。
なお、コラプスの時間短縮は四秒程度にまで縮めることができている。
これ以上の時間短縮は正直難しい。ここからは両手を使って更に時間短縮が図るしかないだろう。
さて、このダンジョン第二層に朝が来たので、朝食だ。
ミミルを迎えに行くために階段を上がると、
ミミルを探して辺りを見回すと、彼女は祭壇状になった建造物の端に立ち、
〈ミミル、何をしているんだい?〉
〈――ん?〉
ミミルは俺の方に振り返ると、おとがいに指をあてて首を傾げる。
〈なに、天気の心配をしていたのだ。朝焼けが見えるということは雨が降る前兆だからな。しかし、ダンジョンの中では必ず雨が降るというわけではないし、降っても雨量までは予想ができん〉
〈なるほどねぇ……〉
このダンジョン内でも雨が降ることがあるんだな。
ダンジョン内の各層は実際にどこかの星、どこかの世界にある環境を再現したものだと聞いているが、天候まで再現しているとは思いもしなかった。
つくづく思うが、このダンジョンというのは不思議な場所で謎が多い。
俺の家の庭にできてしまった以上、少しずつでも解明しなければならないだろうな……。
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