第94話

 コラプスを何度練習しても着弾点をコントロールできないなら使えないからな……。先ずは固定したまとを狙い、確実に当てられるようにはしておきたい。


〈魔力砲の精度を上げるには、二つの方法がある。一つは……〉


 ミミルは指先を俺の方に向け、クルクルと回す。


〈魔力の塊を回転させる。練習して気づいているだろうが、弾き飛ばした魔力の塊は風の影響を強く受ける。単に魔力の塊をぶつけて飛び出した無回転の魔力の塊は、正面から風を受けて飛んでいくことになる。

 その通り道に少しでも空気の乱れがあると、その影響を受けて右へ左へ、上に下にと曲がってしまう〉


 サッカーの無回転シュート、バレーボールの無回転サーブに似た感じなのだろう。そういえば、火縄銃やキャスケット銃も同じような弱点があったと聞いたことがあるな。


〈射線を軸に回転させればいい……ということか〉

〈そのとおり。そしてもう一つ――まっすぐ飛ばしたいなら、通り道を作ればいい〉

〈それは……〉

〈風魔法で通り道を作る〉


 なるほど。まとに当てることを考えるのであれば、通り道……トンネルを作ってしまうのが手っ取り早い。問題は、魔力の塊を弾き飛ばすために二つの魔力の塊を作り、同時に魔力の塊が通るトンネルを作ることができるのかということだ。正直、俺には厳しい気がする。


〈そんなに難しいことではない。指先がまとを向いているのだから、無意識のうちにその通り道を作るようになる〉

〈そんなものか?〉

〈そんなものだ。その二つを組み合わせれば離れていても正確にまとに当てられるようになる〉

〈ありがとう。つまり練習あるのみだな〉


 ミミルは黙って頷く。

 これだけのことを訊くのに、以前はどんなに苦労しただろう。

 ミミルの世界の言語とはいえ、言葉が通じるようになったのは本当にありがたい。


〈ミミルは何か俺に聞きたいことはないか?〉

〈そうだな……雷の威力を上げる方法があれば教えてほしい〉

〈ふむ……〉


 雷の威力――電力ワット電流アンペア×電圧ボルトで表すことができる。

 現状ではミミルの雷が何アンペアでているかわからないので、どれだけの威力があるかもわからない。だが、電力ワット電流アンペア×電圧ボルトなのだから、手っ取り早く威力を上げるには電圧を上げてしまえばいい。

 空気の絶縁限界値は一メートルあたりの電圧ボルトで表現される――つまり、電圧ボルトは距離に比例して大きくなる。


〈上空に作る電場の位置を高くすればいい〉

〈それだけか?〉

〈理屈では……それだけだな〉

〈ふむ……ありがとう〉

〈いや、こちらこそ〉


 地下への階段を下りながら、ミミルに言われたことを思い出す。

 まず、打ち出して飛んでいく弾道をイメージして風魔法でトンネルをつくる。次に、打ち出す魔力に回転をかけるということ。

 前者は練習していれば自然とできるようになるとミミルが言っていたが、問題は後者の方だ。


 ――どうやって魔力の塊を回転させるか。


 拳銃やライフルは銃身に螺旋状の浅い溝が掘られている。ライフリングとも呼ばれるこの技術は、弾丸が飛翔時に縦横に回転しないようにするために使用されていると聞いた。発砲された弾丸が銃身の中で螺旋状の浅い溝に沿って回転するようになっているのである。

 一方、コラプスは指先に作った魔力の塊に、後ろから別の魔力の塊をぶつけて弾き飛ばすだけ――つまり、銃身なんてものは存在しない。

 そもそも銃弾が回転することで姿勢が安定するのはジャイロ効果のおかげだ。ジャイロ効果は質量があるものが回転することで、同じ姿勢を保つというもの。質量などほぼ無いに等しい魔力の塊を回転させたところで効果がないようにも思えてくる。

 だが、大先輩のミミル先生がおっしゃるのだから、聞いたとおりに回転を試してみなければならない。ミミルの説明からすると、実際にミミルの魔力砲には回転が加えられているはずなのだから。


 地下の部屋に到着して、すぐに置いたままになっている丸太椅子に指先を向ける。

 この世界では魔法は想像し、創造するもの。

 先ずは打ち出した魔力が回転しながら飛んでいくイメージをしてみる。


「――あっ!」


 打ち出した魔力の塊が、回転しながら飛び、丸太椅子の狙った場所に当たるイメージができてしまった。螺旋状のトンネルが指先からまとにまで伸びていて、魔力の塊がそこを飛べば自然に回転がかかる感じだ。


 そのまま、何も考えずに魔力を打ち出す。


 石を握って木を殴った時のような鈍い音がすると、十メートルほど離れた場所に置いた丸太椅子が跳ね上がり、角を削りながら数メートル転がって停止する。


「――こりゃすごいな」


 思いの外コラプスの威力があったことに驚いた俺は、その場で暫し呆然と立ち尽くしていた。

 先ほどまで運良く当たったところで小さく音を立てて揺れるだけの丸太椅子が五メートルほど転がっていったのだ。


 ゆっくりと丸太椅子へと歩き、着弾点を確認する。

 指の太さよりも大きく深い。こりゃ削れると言うより抉れた――だな。

 よし、もう一度やってみよう。

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