第93話
食事を終えた俺とミミルは、ダンジョン第二層に戻っていた。
とはいえアルコールが入っているし、夜でもあったのでこれまでどおり、第二層の入口部屋で魔法を練習している。初心に帰って魔力を打ち出す基礎的な魔法――コラプスからやり直しだ。
打ち出すこと自体はできるようになってきたが、無色透明な魔力の塊が飛び出すので着弾した場所を見ることでしか弾道を確認できない。打ち出しの時点で真っすぐ飛んでいないのか、何かの理由で曲がってしまったのかを確認できないのだ。
今も
「うーん……」
十メートルほど離れた場所から指先で狙って飛ばしていても的中率は二割程度しかないので、つい腕を組み、唸り声を上げて考え込んでしまう。
打ち出す速度は間違いなく上がっていて、ミミルが飛ばすときと同じように指先に小さな衝撃波が発生しているのが見える。
初速だけなら拳銃と同等か、それ以上は出ているだろう。
約十メートルはその速度を維持するのだが、それを超えると五メートルほどの間に霧散して消えてしまうことはもうわかっている。音速を超えている間は安定しているが、音速を切った瞬間からバドミントンのシャトルのように減速する感じだ。
それはミミルでも同じようなので、そういうものだと思うしかない。だが、問題は狙ったところに飛ばないということだ。
「いったい何が悪いんだ?」
いつまでも上手くいかないことに苛立ちさえ感じ、つい口悪く
ダンジョン第二層の地上に出る階段を上る。見上げると四角く切り取られた夜空が見える。相変わらず
地上に上がると、ミミルが引き起こした雷の音が聞こえる。俺が起こした雷のレベルとは全然違い、身体の中――内臓や骨が振動するような重低音がやってくる。
まさかこの階段出口あたりで練習していたりはしないだろうが、念の為そっと地表に頭を出して、周囲を見渡す。
ミミルは階段出口のそばに立っていた。
雷の威力を知りたいというので丸太椅子を的にしたらどうかと提案したところ採用されたのだが、三〇分ほどで丸焦げになった丸太椅子が辺り一帯にゴロゴロと転がっている。これだけの威力があれば充分だろうと思うのだが、ミミルにはまだ満足できないらしい。また右手を掲げて五メートルほどの高さから地面に転がる丸太椅子にめがけて無数の雷を作って落とす。
ほぼ同時に幾つもの雷光が迸り、轟音があたりに響き渡る。
「えげつないな……」
周囲に置いてあったはずの丸太椅子が割れ、その裂け目の周辺に火がついて燃えているのを見て正直な感想が口から溢れる。
人間に当たれば死んでしまうレベルの雷撃で、運良く生き残っても鼓膜は破れ、皮膚は大やけどを負うことだろう。正直、ぞっとする。
ミミルは雷が落ちたことを確認するように丸太椅子を指さし、その数を数えている。
俺はその作業が終わるのを見計らい、ミミルの近くへと近づいていく。
〈すごいな、もう充分強いんじゃないか?〉
〈私はまだ雷の威力が足りないのではないかと思っている。この先の層へと行けば、もっと強い敵が現れるからな〉
〈どのくらい強いんだ?〉
最低でも三百万ボルトを超える電圧に耐えられる魔物となると、かなり特殊な外皮をしているのだろう。飛行機や自動車への落雷を思い出すとわかるが、電気は外部を覆う部分を流れる性質があるので、外殻に守られた魔物がいるとすれば全く攻撃が通じない可能性も出てくるわけだ。ある意味、雷耐性とでも言えるだろう。
そのような魔物に対して威力を上げても効果が出ない可能性がある。
〈まず外皮が金属で出来ている魔物がいるな。物理的な攻撃がほとんど効かないのが難点だ。そして、体長が数十メートルもある魔物もいるぞ。皮膚が厚いのでこれも斬撃や打撃はほとんど効き目がない……〉
ここまで話してミミルは何かを思い出したように目を見開き、すぐに眉間に寄せる。
〈どうした?〉
〈これまで雷を使う魔法は存在しなかった。効くか効かないかはわからないということだ〉
〈そりゃそうか……〉
彼女のいた世界でも雷魔法を使用できる者はいなかったのだ。
どの魔物に効いて、どの魔物には効かないというのがわからないのも仕方がない。
〈こ、こうなったらそこらの魔物に試したい。まずはあのあたりにいるキュリクスからだ〉
ミミルは興奮気味に話しかけてくる。
いますぐ魔物で試したくて仕方がないのだろう。
〈ああ、それはいいが朝になってからな〉
〈あ、うん。もちろんだ〉
まだ周囲が暗いので、この祭壇のような場所から草原へと下りるのは危険だ。
たとえ魔力探知や音波探知があっても、人間というのは聴覚より視覚を優先する生きものだからな。
それに、時間があるなら教えてもらいたいことがある。
〈ところでミミル、魔力を打ち出すのはいいが、まっすぐ飛ばすにはどうすればいいんだ?〉
俺は目下の課題についてミミルに相談することにした。
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