第97話
食事を済ませ、二人で階段を上がり第二層に出る。
祭壇のようになった石の建造物の上に立つと、周囲の草が陽光を浴びてキラキラと輝いている。実に美しい……。
〈雨が降るやも知れん。だが、この周囲は魔物も近寄ってこないから風刃の練習するには最適な場所と言えるだろう〉
〈そうだな……〉
目に見えない風刃が成功したかどうかは、風刃によって草が刈り取られるのを確認すればいいからな。
だから問題は、風刃という魔法の実現方法だ。
〝魔力の刃をつくり、投げている〟
俺はミミルの言葉を覚えている。
真空の刃を生み出したところで、数秒もしないうちに消え去ってしまうからだ。
つまり、俺がこれから覚える風刃は、魔力を弾き飛ばすコラプスに近い性質のものだと思えばいいのだろう。弾丸を飛ばすものから投げナイフに変わるといった感じ――なのかな。
〈さて、これから風刃について教える。前にも言ったが風刃は魔力の刃を作り、投げるのだが――実際に投げているわけではない〉
〈手で触れていないからだよな?〉
〈そのとおりだ〉
ミミルは音を立てずに歩きながら説明を始めた。
水を出したり、石礫を出したり……コラプスを放つときも直接手から出るのではなく、魔力の膜ができた先に発生する。同じように、魔力で作った刃も膜の先に作成されるため、直接触ることができないのだろう。
〈そして、投げる刃の形によって特性が変わる〉
俺が見ている中でミミルが使用した風刃は一種類しかない。といっても、実際の魔力の刃は見えていないのだ。
だから、刃の形によって特性が変わるとはどういうことなのか……是非知りたい。
〈まず、ナイフのような形を作れば、投げナイフのような使い方になる。つまり、
ミミルが離れたところに置いた丸太椅子に向かって何かを投擲するような動きを見せると、丸太椅子に何かの金属が当たったような甲高い音が聞こえ、菱形の穴ができた。
〈私は普段から直線ではなく、弧を描いた形に作っている。理由は斬ることに重きを置いているからだ〉
ミミルが俺の方に向かって説明をすると、再度丸太椅子に向き直り、右手を薙ぎ払うように振り抜くいた。
先ほどと同じように何かの金属が当たったような音がするが、今度は横向きに大きな切れ目が入った。
なるほど、刃が直線型をしている場合、投げると大抵は刺さってしまう。
回転して飛んでいくのだから、刃が弧を描くように作るとよく斬れるということなのかな。
〈なるほどな〉
〈む、もう理解したというのか?〉
〈地球の武器にもいろいろと歴史があるからな。それを投げ、風魔法で通り道を作る……でいいのか?〉
コラプスと同じく、投げた刃がどんな風に動き、どのような軌道で飛んで行くかを想像した時点で風のトンネルができるのだろう。
〈そのとおりだ。先ずはそこの丸太椅子に向けて投げてみるといい〉
〈よし、わかった〉
ミミルのように斬る、突き刺すこと……どちらを目指すのかによって形状が変わるというのは正しいと思う。
急所となる心臓や脳天を一撃で突き刺すことができるのなら、
ミミルが斬ることに
では、俺なりの「斬る」は――。
薄い魔力の刃が指先に生成されるのをイメージする。手で握るのではなく、指先にできる膜の向こうに浮かび上がるイメージだ。円形で大きさは直径二〇センチ程度――ほぼ俺の
実体を持たないその武器は透明なクリスタルのよう。表面からは少しずつ魔力が魔素に還る様子がキラキラと輝いている。
この武器はチャクラム――飛輪や戦輪、円月輪とも呼ばれる「斬る」ことを目的とした投擲武器――をイメージしたものだ。外周全てが刃できていて、回転して飛翔し、
両手の先に生み出された魔力の刃を投げることを意識した瞬間、軌道を丸太椅子に当たるようイメージし、右手、左手の順に投げ放つ。
高速で回転しながら低く飛び出した魔力の刃は、イメージした軌道のとおり飛翔し、約十メートルほど離れたところに置いた丸太椅子に迫る。最初に投擲した刃が右下から左上に向けてザクリと傷をつけると、間髪入れずに次の刃が左下から右上へと抜け、深い傷を刻み込んだ。
「――ふぅ、こんな感じか」
丸太椅子に傷を刻んだ二つのチャクラムは数メートル上空へと飛翔して霧散する。
コラプスよりも距離が稼げるのは、この魔力の刃は薄い円盤状で回転して飛ぶことで空気抵抗が低いからだろうか。いずれにせよ、早いこと名前をつけて固定化しなきゃな……。
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