第82話
トマトソースが煮詰まってきたので、玉ねぎと人参、セロリを取り出す。滑らかになるよう、ムーランで濾してやればトマトソースは完成だ。
そうしてトマトソースが出来上がる頃、ミミルが風呂から戻ってきた。厨房に漂うニンニクとバジルの香りにスンスンと鼻を鳴らして厨房に入ってくる。
〈しょーへい、腹が減った。何か食べるものは……〉
ミミルの視線がある一点に集中している。
煮込んだトマトソースの鍋から取り出した香味野菜たちだ。ダンジョン内での食事はどうしても肉食に偏りがちなので、この出涸らしの野菜を使って何か用意してもいいが……時間がもう二時を過ぎている。
〈こんな時間帯に食べるのは身体に良くないんだぞ〉
そう言ってミミルの方に視線を戻す。
見た目は育ち盛りの小学生だ。それに、ダンジョンの中に入っていれば身体が最適化されるとミミルが言っていたはず――つまり、太ることもないということなのだろう。
〈お腹が
〈
正直、地球時間で二日も風呂に入っていないことになるのでさっぱりしたいところだが仕方がない。
トマトソースも作ったことだし、夜食にパスタでも出すことにしよう。今から麺を打つにしても、生地を寝かす時間に風呂に入ることができる。
〈よし、少し時間かかるぞ〉
一応、ミミルには時間がかかることを伝えておき、作業に入る。
先ずは強力粉。それを二〇〇グラム計量し、大理石の麺打ち台に広げて真ん中に穴をあける。そこに鶏卵を二つ、塩小さじ三分の二、オリーブオイルを小さじ二杯を入れて混ぜ合わせる。
〈何をしている?〉
最初はボソボソと固まるのだが、周りの粉を混ぜ込みながら練っていくと、大きな塊になってくる。
粘土細工でもしていると思ったのだろうか……ミミルが興味深そうに調理工程を覗き込んでくる。
何をと言われても、あなたが食べるパスタなんですけど……。
〈――ん? 腹が減ってるんだろ?〉
〈うむ。目の前で料理ができるのを見ていると余計に腹が減るな〉
〈とりあえず、これはパスタという。小麦という穀物から作る麺のことだ。詳しくは図鑑に載っているはずだからあとで調べてみてくれ〉
打ち粉を振って表面が滑らかになり、耳たぶくらいの硬さになれば四分割してラップをして寝かせる。ここで寝かせることで、麺が伸びやすくなる。
二〇分以上はこの生地を寝かせることになるので、このまま風呂に入ることにしよう。
〈さて、このあと伸ばして麺にしていくのにこのまま少し生地を寝かせるんだ。その間に風呂に入ってくるよ〉
〈了解した。二階の部屋で待つことにするぞ〉
〈そっか。じゃ、一緒に二階へ行こう〉
着替えは二階の自室にあるので、一度取りに行く必要がある。
また、夜なので二階の部屋には鍵をかけている。ミミルが入るにはその鍵を解錠しなければ入れないからな……。
◇◆◇
三〇分ほどで風呂から出てくると、俺は早速麺を打つことにする。
パスタマシンもあるのだが、ここは仕事の勘を取り戻すためにも綿棒で伸ばし、包丁で切ることにしよう。
麺打ち台に再度打ち粉をして、そこに丸めた生地を置き、綿棒で四角く伸ばしていく。最初に角をつくり、厚みが均等になるように伸ばしていくのだ。今回は一ミリ以上、二ミリ未満といったところまで薄くする。
丸めた生地を厚みが均等になるように四角く伸ばすと、三つ折りにして包丁で好みの幅に切りそろえていく。幅は五ミリ程度――少々細めだが、タリアテッレやフェトチーネといわれる麺の完成だ。
さて、ここからは麺を茹でると共に、ソースを作る工程になる。
ニンニクは焦げやすい。
だから、オリーブオイルの海に浮かべ、じっくりと火が通るように
業務用コンロの高さ、火力調整をするためのレバーの使い勝手などを確認するように調理する。
「うん、いい感じだ」
店頭で何度も試しただけの効果はあった。実に使いやすい。
トマトソースをレードルで掬って入れると、続いてパスタを茹でるために沸かした寸胴鍋の湯をレードルで掬い入れる。
湯が沸騰したところで、麺を解しながら投入し、茹でる。
実は乾燥パスタは塩なしで作られているので、麺に塩味をつけるために茹で汁に塩を加えないといけない。
だが、手打ちの生パスタは材料に塩が入っているので、必ずしも茹で汁に塩を入れる必要がない。今回は塩なしだ。
ぐるぐると鍋の中で回るタリアテッレが浮かんで来たら、フライパンのソースの中に移し、フライパンを煽りながら
最後に千切ったモッツアレラチーズ、バジルの葉を入れて混ぜ合わせ、オリーブオイルを振りかける。
最後は盛り付けだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます