第九章 将平の料理
第81話
あれから小一時間ほど雷魔法の練習をしたのだが、俺は体得するに至らなかった。そもそも、魔力を弾き飛ばす〝コラプス〟でさえ成功とも言えない状況なのだから仕方がない。
ミミルが
一方、ミミルは第二層の地上で雷魔法の広域化に挑戦中だ。地面に小さな鉄の塊をばら撒いて、同時に落雷させることができるかというのを検証しているらしい。それができれば広域での敵戦力の無効化が可能になるだろう。いまの俺には基本的な雷撃さえも扱えないだけに、ついつい期待してしまう。
スマホを取り出して時計を見ると、時間は一時一八分。
朝食後にトイレに戻ったときにみた時刻はニ三時だったので、二四時間以上経過していることになる。その証拠に日付表示は二日進んでいる。
地上で二三時に時計を見てから三〇分程度過ごしてからダンジョンに入ったとして、二三時三〇分。ダンジョン側の時間では
今日はピザ窯の仕上げと、カウンター席の内側に設置するエスプレッソマシンの設置が予定されているはずだ。業務用のエスプレッソマシンなので、水道直結で二〇〇ボルトの電源を用いる。当然、「持ってきて終わり」という機械ではなく、設置に立ち会わなければならない。とはいえ慣れた業者なら設置工事、動作確認に一時間もあれば終わるだろう。
ピザ窯はもう形になっており、タイル貼りも終わっているので、火を入れて、ひび割れなどの問題が出ないか確認すれば終わるはずだ。
となると、そのための準備もある。
そろそろ地上に戻ったほうが良さそうなので、ミミルに声掛けしよう。
水と石を出す魔法の練習を
ふと見渡すと、少し離れた場所でミミルが雷魔法の練習をしている。
雷雲が生じるわけではないが、まだ暗い草原に無数の雷が閃光を放つ。そして、少し遅れてその
〈すごいな。もうこんな広範囲に雷を落とせるようになったのか……〉
ゆっくりとミミルに近づくと、声を掛ける。
ミミルはおとがいに指をあて、何やら考え込んでいたようだ。しかし、俺の声に気づいてこちらへと振り向いた。
〈もう少し範囲を広げたい。あとはどのくらいの威力があるかを知りたいところだ〉
〈そうか、研究熱心だな。ところで、明日の準備もあるので地上に戻ろうと思う。ミミルはどうする?〉
〈私は――そうだな、一旦戻るとしよう〉
ミミルはばら撒いた
◇◆◇
ダンジョン第二層から戻ると、ミミルはまっすぐにトイレへと向かっていった。先ほど戻るかどうか
ミミルには自分に溜め込んだ魔力だけで俺に特大の雷を落とせるくらいの力があるはずだからな。
まず、俺は浴室に入って浴槽に栓をし、湯張りボタンを押す。
そして、厨房へと向かった。
厨房に入ると、まずは酵母ちゃんのご機嫌を確認するため、ガラス
次に、青森産の大粒なニンニクを一片取り出すと、作業台の上の
〈何をしているのだ?〉
用を済ませたミミルがやってきた。
俺が何かを作り始めているので、気になるのだろう。
玉ねぎ、人参を足元の箱から取り出し、
〈明日、このピザ窯が出来上がる予定だからな。生地は起きてからでいいが、ソースは今から仕込む方が美味い。すぐに食べるわけじゃないぞ?〉
〈そ、そうなのか〉
なんだかとても残念そうな表情をするじゃないか。
まさかとは思うが……。
〈腹が減ったのか?〉
〈い、いや……大丈夫だ〉
〈だったら、先に風呂に入ってくれ〉
〈わかった〉
おにぎり、弁当、サンドウィッチ、ケーキに兎肉のディアヴォラ等々……空間収納には充分過ぎるほど食べる物が入っているはずだ。腹が減ったらそれらを食べるだろう。
だが、ミミルは何となく肩を落として家の奥へと歩いていく。
いったいどうしたというのだろう……。
さて、ソースの続きだ。
フライパンにオリーブオイルを敷いて、玉ねぎ、人参、叩いたセロリを入れて炒める。それを、ニンニクを煮ていた鍋に放り込み、塩と潰したホールトマトを入れて煮込めば終了だ。
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