第80話
俺がミミルの話す言葉を理解できるようになって、ミミルから積極的に話しかけられることが増えた。
〈ところで、私がしょーへいに魔法を教えるはずが、先ほどから教えられている気がするのだが……〉
確かに電気の魔法については俺の方が知識があるからな。他にも地震や電磁波、超音波なんかについても間違いなく俺の方が理解できている……はずだ。
図鑑を読んだところで、小中高と真面目……に勉強に取り組んだ俺の知識量を超えることは無いだろう。
逆に、魔法に関する基礎知識そのものはミミルの方が断然多く、経験も重ねている。つまり……。
〈魔法の知識と経験はミミルの方が上じゃないか。地球にはミミルの知らないことも多いから、それを教えるのは言葉を教えるのと同じくらい大切だろう? だから、ミミルは気にしなくていいんだよ〉
〈ふむ。では、魔法の基礎的知識は私が教えよう。その代わり、魔法の可能性を広げるため、地球の知識を私に教えてくれるか?〉
〈俺はもうその気になってるぞ〉
〈そ、そうか……〉
ミミルは元いた世界には戻れないんだから、こちらで生活していくために必要な知識は身につけてもらいたい。そうして得た知識を使って魔法の可能性が広がるのなら、それはそれで
それにしても、ミミルの口調は念話と全然違うんだな。念話だと、単語の羅列になっている感じなのだが、実際に話をしてみると命令口調というか、偉そうな印象を受ける。
〈ミミルはいつもそんな口調なのか?〉
〈――ん? そうだな。フィオニスタ王国では部隊を率いる立場にあって久しい。もう染みついてしまっている〉
〈なるほど、そういうことか。でも、地球でもそういう話し方をするのはどうかなぁ……〉
見た目は小学校の高学年で、とても美しく可愛らしい少女だというのに、口調は明らかに軍隊の隊長のような威厳ある言葉というのは「需要がある」のだろうか?
正直、ミミルの外見であればお嬢様系の気品ある言葉遣いの方がイメージとして良いはずだ。最初は単語の羅列にしかならないから無口系美少女になりそうだが……。
〈しょーへい、いま何を考えている?〉
〈い、いや……なんでもない〉
正直に話すと拗ねられる……いや、覚えたての雷魔法の練習台にされそうだ。
そういえば、雷魔法の発動にはミミルも成功したんだ。その喜ぶところに俺が急にミミルの言葉を理解できるようになって騒いでしまったからな……きちんと祝えてなかったよな。
〈あぁ、その、なんだ……雷魔法、覚えられてよかったな〉
〈そうだ、雷魔法だ!〉
ミミルはまた皮の
先ほどから床の上に置いたままになっている鉄の塊へと身体を向けると、左手を鉄の塊に向け、右手をその上方へと向けて突き出した。
そして、数秒もしないうちに閃光と共に鉄の塊に雷が落ち、室内に轟音が響き渡る。
〈ふむ。これで雷らしい動きになったのではないか?〉
目標物の真上から閃光と轟音を立て、ミミルが生み出した電荷から目標物へと放電される。つまり、自然の雷に近い動きだ。
何よりすごいのは、離れた場所に電荷を作り上げるミミルの魔力制御だろう。
〈すごいな。雲がないところで落雷を再現したのか……〉
〈うむ。敵に悟られずに一撃を見舞うことができる。この鉄の塊では威力まではわからんのが残念だ〉
確かに鉄の塊では電気が地面に流れてしまうので効果がわかりにくい。せいぜい、熱を持っていることがわかる程度だ。
自然の雷が生命体に落ちればまず即死だ。数万アンペアの電流が最大十億ボルトにも達する電圧で流れるのだから当然といえる。
放電するために必要な空気の絶縁限界値は一メートルあたり数百万ボルト。ミミルの魔法で作り出した雷も、瞬間的とはいえそれ以上の電圧で流れることになる。
それだけの電圧・電流が直撃するのだから、運良く生存した場合でも、意識障害、発熱、火傷、神経系統の麻痺などの症状が出ることが予想される。俗に言う、スタン効果というやつだ。
これは俺にとっても非常に有効な手段だと思う。
複数の魔物が出た時に、初手でスタンさせれば非常に楽になるだろう。
「俺も使ってみるか……」
俺はポツリと呟くと置いたままになっている鉄の塊に向かって立つ。
ミミルのように頭上から落とす必要はない。とにかく、指先と
魔力によって生じる静電気から負の電場を指先へと集め、その受け先となる正の電場を的となる鉄の塊に纏わせる。
微調整などしない。一気にバルブを開くが如く、魔力を流し込んでいく。
だが、二秒、三秒と時は過ぎるが、発動しない。
〈しょーへいにはまだ早いようだな〉
十秒ほど待って、ミミルの指摘する声が聞こえる。
離れた場所へ正の電場を作ることや、放電するほどの電圧を溜めるだけの魔力が足りないのだろう。
これは練習あるのみだな……。
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