第46話

 ピザ窯の設置の方は順調に進んでいる。

 耐火コンクリートはすでに乾燥し、固まっているので空焼きを始めるそうだ。細い藁に火をつけ、小枝から小さな木片へと燃やすものを変え、ゆっくりと窯の中の温度を上げる作業に入っている。

 そうすることで、表面だけではなく全体を乾燥させてより強固な窯に仕上げることができるんだそうだ。


 なかなか派手に煙がでるな。

 通り庭の先を改築する前は土間だったので、改築前の作業であれば庭で組み立ててしまうこともできたそうだが、もう遅い。

 厨房内の換気扇も使って排煙していく。


 じっとその工程を見つめていても仕方がないので、二階の自室へとまた戻る。知らない間にミミルはダンジョンに向かったようだ。

 見事に気配を消して行動しているようだが、隠蔽のスキルでも使っているのだろうか。


 そう考えてしまうのは、俺もラノベの読みすぎなのかも知れないな。


   ◇◆◇


 昼前になって、インターフォンが鳴った。

 そういえば、今日は大型のディスプレイとストリーミングデバイス以外にも、店で使用する調理器具が大量に配達される日だ。

 壁際に進んで表示されている画像を確認すると、積み降ろした鍋やフライパンなどを背景に金物屋のお兄さんが笑顔でカメラを覗き込んでいる。


 ピザ窯の職人が入って作業をしているので、店の玄関扉は開いていることを伝えると、最終的な納品物の確認等が必要だから俺も一階へと下りていく。

 厨房への扉を開くと、金物屋のお兄さんに置き場所などを指示していく。とはいえ、寸胴や両手鍋、片手鍋、フライパンなどはコンロの上、ムーランやシノア、レードルなどの大きくない器具は調理台の上に置いてもらう。

 新品なので保護のための青いシートが貼られていたり、製品名がデカデカと書かれたステッカーが貼られているものがあるが、それらはこちらで剥がして使うことになる。

 どうせ使うのだからすぐに剥がしてくれればいいのに……などと思って見ていたが、剥がしてしまうと納品書との突き合わせができないことに途中で気がついた。


 仕事用とはいえ、納品書を見ながら小物系の調理器具類まで一つひとつ確認する作業はたいへんだった。

 これを使用可能な状態にするためには、これから一つひとつ洗わなければいけない。

 もちろん、拭き取る作業も必要だ。届いた荷物に入っていた布巾についた糊を先に洗い流さないといけない。

 全部で二〇枚くらいある布巾を洗い終わる頃には、時間は正午になっていた。

 ピザ窯職人たちは、昼前までに空焼きを終えたようだ。今日は窯が冷えるのを待って、装飾用のタイルを貼る作業に入ると言って、食事へと出ていった。


 職人がいなくなったとたん、ミミルが俺の手を引いた。

 やはり隠密のようなスキルを使っているとしか思えない。ピザ窯職人たちが気づいていないんだから、間違いないだろう。


『おなか、へった』

「そうだな。昼めしにしたいんだが……」


 それはいいとして、昼食に出るにもミミルはダンジョン用の衣装のままだ。汗もかいているだろうし、髪なども汚れていることだろう。今からシャワーを浴びさせるわけにもいかない。


「その格好はダメだから、なにか配達してもらおうか」

『ん、わかった』


 ミミルはそのままの格好で二階の部屋に向かった。

 そこに俺のスマホの着信音が鳴る……電話に出ると、家電の配達業者だ。あと一〇分くらいで配達に来れるという話である。

 当然、俺はそのまま配達を依頼して、電話を切った。


   ◇◆◇


 しばらくして、ディスプレイとストリーミングデバイスが俺の部屋へと到着した。

 さすがに五〇インチのディスプレイともなると部屋の中での存在感がすごい。無線は事務所部屋から飛んできているものを受けているので、少し弱いようだが安定はしているので問題ないだろう。確か、追加で子機みたいなのをつけると受信範囲が広がるはずなので、必要なら買えばいい。

 ストリーミングデバイスはアニメや映画など契約していれば無料で見られるタイプのチャンネルと、ブラウザがついているタイプのもの。

 業者が基本的な説明を済ませ、帰ったあとにちょうどデリバリーサービスのお兄さんが注文した中華料理店の弁当を持ってきてくれた。全国的にも有名な中華料理店の本店が一駅西側にあり、そこからの配達だ。餃子が大きめ、焼き飯はパラパラだけどしっとりとしていて、食べると舌にじわりと旨みが広がるのがいい。

 それに魔法の粉がついた唐揚げがあればもう最強だ。

 最初は餃子の匂いに少し抵抗を感じていたミミルも、ひとくち食べて虜になったようだ。小さな口で大きめの餃子を美味そうに食べている。


 食事をしながら俺は思い出したようにストリーミングデバイスを操作する。

 開くアプリはウェブブラウザだ。

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