ミミル視点 第44話(下)
トイレの話が終わると、しょーへいは目の前に料理を広げ始める。
一昨日も食べた鳥を揚げたものもあるのが
生の野菜が色々と入った容器もある。エルムヘイムでは見かけない野菜が多く入っていてとても興味深い。
しょーへいは容器の
しょーへいが持っているものは……アレと言って指させばいいのか、コレと言うべきなのか……まあいい。
『なに?』
『――これ、ドレッシング。やさい、あじつけ』
『ドレッシング……ドレッシング』
しょーへいの言葉に合わせ、名前を覚える。
生野菜に味をつけるためのものという意味では、エルムヘイムでも塩を振って食べたりする。だが、液体になっているなら、混ぜ合わせると
チキュウの料理はよく考えてあるな……。
だが、知りたいのは、「どんなものなのか……」ということ。
続けてしょーへいに尋ねることにしよう。
『ドレッシング、なに?』
『あぶら、す、しお……まぜる。あじ、いろいろ』
なるほど……油の種類を変えたり、混ぜるものを変えれば味もいろいろと違うものができる。これは柑橘の香りがするところをみると、このドレッシングとかには柑橘の汁が混ざっているということか。
ドレッシングを混ぜ終えた生野菜を取り分けると、しょーへいは私の分を差し出す。
爽やかな柑橘の香りがまた漂ってくる。葉物は青々とし、
そうして目の前に差し出された生野菜を眺め、視線を上げると、しょーへいが手元に持つ金色の容器が目に入る。
しょーへいがその容器についた輪に指を入れて動かすと、分厚い紙をナイフで切ったときのような乾いた音がする。そして、開いた穴から大量の気泡が弾ける清涼感溢れた音が聞こえてくる。
すると、しょーへいは直接容器に口をつけ、ゴクゴクと喉を鳴らして流し込む。
『――ブハッ』
どれだけ一気に流し込んだのかわからないが、しょーへいは一瞬だけ
たちまち辺りに
酒か?
酒を飲んだのか?
自分だけ?
「しょーへいだけ酒を飲むのはずるいぞ!」
容器の中身を幸せそうに飲むしょーへいを睨みつける。
ひと仕事した後のエールはダンジョン収集者が地上に戻ったときの楽しみのひとつ。そして、私もひと仕事してきた後なのだから、エールを楽しむ権利があるはずだ。
私の言葉に、しょーへいは視線を泳がせ、思考を巡らせている。
『ビール、だけ、ある。いい?』
『ビ、ビール、なに?』
エールに似た名前の酒のようだが、聞いたことがない名前だ。
エールは発芽したダンジョン産の大麦と香草に水を加えて発酵させた飲み物。もとは甘い麦芽糖を作るために樽に入れていた麦芽に誤って香草を入れてしまったことで生まれた酒だと言われている。
果実のような甘い香りに、苦味と爽やかさを加える香草の香りが加わった美味しい飲み物だ。
『おおむぎ、こうそう、つくる、さけ』
なんだ、エールではないか。
チキュウではエールのことをビールと呼ぶのか。
「それでいい。私も飲みたい」
しょーへいは何も言わずに立ち上がると、私のビールを取りに部屋を出て、すぐに戻ってきた。その手にはビールの容器が二つ握られている。
そして、しょーへいが差し出した容器を受け取る。
とても冷たい。
『ここ、ゆび、いれる、ひく。あな、あく、おす』
しょーへいは手に持った容器の蓋を開いてみせた。
実に簡単ではないか。
容器の輪になった部分に指を入れて、手前に引けば穴が開く。そして、輪の部分を押して戻せば良いのだろう?
まず指をだな……むっ、硬いし、痛いぞ。身体強化して無理に開けると爪が剥がれそうだ。
しょーへいは涼しい顔をして穴を開けていたが、痛くないのか?
何度も指先で輪になった部分を弾いていると、しょーへいが私の容器を取り上げて穴を開けてくれた。
礼を言って受け取ったビールの容器を鼻に近づけて香りを嗅いでみる。
酒精の匂いよりも、草と土の匂いに、花の香りが混ざったような複雑な香りが強い。
ああ、たくさんの気泡が弾ける音が小さな穴から聞こえる。
こうしてエールを口にするのも久しぶりだ。
容器に口をつけ、中身を喉に流し込む。
飲み慣れたエールと違って、とても冷たいがすっきりとした味わいで飲みやすい。これは鳥を揚げたものやトンカツによく合う味だ。
でも確かに、エールとは少し違うな……。
「しょーへい、もう一つ持ってこい」
久しぶりに
【あとがき】
本編及びタイムラインが進まないので、ミミル視点の掲載はここで休止となります。
ご容赦下さいませ。
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