ミミル視点 第44話(上)
昨日収集してきた棉花から、糸を紡ぎ、染色。その糸を使って作った布を用い、しょーへいの防具を作った。
上半身はエルムヘイムで一般的なチュニック。頭から被るように着用する服だ。裁縫の魔道具があれば簡単に縫い上げることができる。
ウエスト部分は腰紐を用意しているのでそれで締め付ければいいが、袖の長さは余るようなら調整できるよう、紐で縛れるように作ってある。製錬した糸のまま――生成り色をしているが、紐は黒に染めてある。
そして、そのチュニックの上に着るジレも作ってやった。これは、ダンジョン第二層にいるドルクへットという魔物の皮を使っている。とても柔らかく
しょーへいはエルムヘイム人と似たような身体構造をしているので、内臓を保護するためにも革製品での保護が必要だ。ドルクヘットの革で作ったジレなら、魔物に突かれたくらいではダメージを受けることがないだろう。
同じ革でリストバンドと腰紐も作っておいた。武器を持って魔物と戦うので手袋にしたいところだが、しょーへいの「チン」は手袋越しで発動するかはわからないので仕方がない。
下半身の装備はエルムヘイムで男性が履くズボン。だが、ポケット部分はしょーへいが普段着ている服を参考にして作ってみた。使い慣れた形をしている方が、しょーへいも抵抗が少ないだろうからな。
革のなめし剤、糸の精錬には土属性の魔石を粉状に砕いたものが混ざっているので、着用者が攻撃を受ける時に僅かに漏れる魔力で硬化する。これで第五層あたりまでの魔物なら噛み付き攻撃や角などの刺突攻撃には十分な備えとなるだろう。
さて、作るべき装備も用意できたことだし、チキュウ側の時間もそろそろ頃合いだろう。
しょーへいの家に戻ることにしよう。
◇◆◇
ダンジョン出口を出ると、周囲は既に日が暮れて薄暗くなっている。庭から店の中を覗き込んでみるが、そこは真っ暗で誰もいない。
視線を上げて見ると、明かりが灯っている。
しょーへいは二階の居室にいるのだろう。
出来上がった装備品を見て、どのような顔をするか楽しみだ。
「アコイレ」
部屋に戻ると、しょーへいが
なんだ?
翻訳されなかったが、どんな意味がある言葉なんだろう……まあいい。
「しょーへいのために装備品を作ってきたぞ。今度からこれを着てダンジョンに入るといい」
しょーへいの前まで歩いていって、空間収納から作ったばかりの装備品を取り出す。
気に入ってくれるだろうか?
しょーへいはいつも同じような服を着込んでいる。
ただ、ダンジョンの中で着る服は「防具」なのだ。
多少好みとは違ってもそこは認めてもらいたい。
『ミミル、つくった? ありがとう』
しょーへいは、目を輝かせ、破顔して礼を述べる。楽しい時、面白いときとは違った笑顔だ。
そうして喜んでもらえていると思うと、自然に自分の顔が
しょーへいは受け取った服を広げ、サイズ感などを確認する。
見た目でサイズを測るのは難しいのだが、ある程度の余裕をもたせる前提で作っているので問題ないはずだ。チキュウのズボンとは違うところもあるだろうが、慣れてもらうしか無い。
しょーへいは続けてチュニック、ジレ、リストバンドの順に受け取ったものを確認している。
「気にいってもらえたようなら嬉しいのだが……」
サイズ的におかしなところがあれば直したいという理屈を
『あと、きる……ばんごはん、たべる』
「そうだな。長くダンジョンにいたので腹が減ったぞ」
こちらの五時間は、ダンジョン第一九層だと七〇時間に該当する。この間、二個のベントウ以外にも、空間収納にある食料を調理して食べていたが、チキュウの食物を食べてしまうと味気がなくて、つい食欲が下がってしまう。
『ミミル、ダンジョン、いた。たべる、どうした?』
「食材は空間収納にある。焼いて食べたり、煮て焼いたりして食べていたが……ただ、トイレだけは戻っていた」
エルムヘイムでは紙は高級品。そして、堅い。使うときは執拗に揉んで柔らかくして使うのだが、それでも敏感で肌の弱い部分には優しくない。
「ここのトイレは洗ってくれるからな……あれは良いものだ」
チキュウのトイレは温水で尻を洗ってくれる。強さも調節できるし、紙も非常に柔らかい。用が済めば水で流してくれてとても清潔だ。しかも、便座が……温かい。
何年かかるかわからんが、エルムヘイムに戻ることができるようになったら是非、持ち帰りたい。いや、持ち帰ってみせる。
『そのとおり』
しょーへいも私の意見に賛成してくれるようだ。
力強く言葉を発すると、何度も頷いていた――。
────────◇◆◇────────
第45話以降、ミミル視点の掲載を控えることにします。
あまりにもメインとなるしょーへいの話が進まないので……
投稿は 火水金土日 12:00 を予定しています
(但し、今後の様子をみて変更する可能性があります)
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