第43話
ダンジョンへと向かったミミルを見送ると、俺は工事の進捗を確認するため、厨房へと向かう。
昼食の時間が終わったのか、石窯の職人さんが戻って作業を再開していた。
ドーム型に作るのだが、型を事前につくって持ち込んでいるし、事前に仮組みなどをしてくれているので比較的スムーズに組み上がっているようだ。かなり形になってきている。
職人さんに聞いてみると、今日の工程は、石窯を形にするところまで。明日にはコンクリートも乾いているので火入れをして更に強度を上げる作業となるらしい。そして明後日は全体のタイル張り……装飾作業だそうだ。
そこに電話がかかってきた。
相手はベランダ・ウッドデッキの工事をしてくれた業者だ。ベランダまでの高さを確認したいという内容の電話で、今から現地確認させてほしいとのことだった。
何やら近くに来る用件があったそうで、数分後には来れるとのことだったので来てもらうことにしたら、本当に数分後には店に来たので、現地を見てもらう。
「高辻さん、こんなんありましたっけ?」
ダンジョンの入口を見たベランダ工事業者が驚いている。
ミミルはダンジョンへの入口に石を積み上げ、雨が降っても水が入ったりしないようにしてくれていて、外観はそこに階段があるようには見えない。昼食後に作ってくれたのだろう。
見事に切断された石で組み上げられているので、とても立派な石造りの建物に見える。
「いま厨房の方でピザ用の石窯を組み立ててもらってるんだけど、薪を入れておくところがないから知人に頼んで作ってもらったんですよ」
「ああ、なるほどねぇ……でもこれ、えらい立派ですやん」
ベランダ工事が終わったのは一週間くらい前なので、わずかな時間でこんな建物ができていれば驚くのは当然だ。
立派な石造りの建物のように見えるから、すごく関心されている気がする。
まぁ、さっきつくったばかりで真新しい感じもするし、逆にそれで上手くごまかせたのだろう。
ベランダ工事業者が高さと幅を測り、商品のカタログを見せてくる。
「非常用で、そんなしょっちゅう使うもんやないし……こんなん、どうです?」
写真を見ると、「し」の文字を逆さまにしたような形をしている。まるで、プールの中から上がるときに使う梯子のような形だ。上部に大きめのステップと手すりがついている。
ミミルは毎日のように使うだろうが、階段を作るわけにいかないのでこれでいいだろう。
「ベランダ側の工事も必要だろ?」
「そうですね。たいした工事とちゃいますよ」
「じゃ、それで見積書もらえる? あと、納期も教えてほしい」
「わかりました。あとでメールさせてもらいますわ」
ベランダ工事業者は何やら嬉しそうに帰っていった。
これが取れれば今月のノルマ達成でもするのだろうか?
◇◆◇
ベランダ工事の業者が帰った後、ピザ窯の進捗状況を確認した俺は近くのデパートへと足を運んでいた。
店では本格的なピザを出すつもりだが、ランチタイムに出すパンは自家製のものにしようと思っている。しかも、天然酵母パンだ。
そうなると、天然酵母を作る作業そのものに五日以上かかる。試作のことを考えると、そろそろ仕込みくらいはしておく必要がある。
デパートに買い物に出たのは、天然酵母を繁殖させるための干しぶどうや砂糖を購入するのが目的だ。
合わせて雑貨店に立ち寄って、ガラスジャーなども買い揃えなければいけない。
デパートに入ると、先に調理器具と日用品の売り場へと足を運び、ガラスジャーを選んで購入する。
あまり大きいと、煮沸消毒する際に大きな寸胴鍋が必要になってしまうので、一リットルくらいの大きさのものをまとめて一〇個ほど購入した。今日から仕込む分のことを考えて、半分以上は配送してもらう。
あわせて、そのガラスジャーを煮沸消毒できる程度の大きさがある半寸胴鍋を一つ。これは非常に重いのだが持ち帰りにしてもらった。これがないと今日から酵母づくりができないので仕方がない。
会計を待つ間、調理器具売り場にいると、料理人という職業柄どうしても目が奪われる商品がある。
低い温度でじっくりと火を通すことができる低温調理器などはその代表だ。
いずれは俺の店でも扱いたいと思っているところなだが、ローストビーフくらいならオーブンで焼ける。無くてはならない調理器具というわけではないのだ。
そして次に目が行ったのは食器類。
「ミミルの食器が必要かもな……」
今のところはペットボトルの紅茶などを出しているが、これからは温かい飲み物を飲みたいときもあるだろう。マグカップや茶碗なんかも必要だ。
売り場には女性が好きそうな可愛いデザインのものから、和食器の伝統的な絵柄の入ったもの、シンプルだが飽きることがなさそうな洋食器などが揃っていて飽きることがない。
だが、ミミルの好みもあるだろう。
俺が選んで渡しても喜んでくれる気がするが、また連れてくることにしよう。
それだけでも喜んでくれそうだ。
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