ミミル視点 第42話
空間収納から種取りをする魔道具と魔石を取り出すと、魔道具に嵌め込んでから、魔石に魔力を流し込む。
構造は実に簡単。棉の実を回転する棒で巻き込み、種の部分を捻り出すという動きをするものだ。
そこに乾燥した棉の実を入れていけば、綿と種が分離される仕組みだ。
魔道具にある穴に、棉の実を入れる。
まとめて入れると楽なのだが、服を作るのに必要な量は変わらない。
横の穴から種や
そして、魔道具の底には種が取れて圧縮された
作業は棉の実を穴に投げ込むだけ……。
ただ淡々と、何も考えなければ、余計なことを思い出すこともない。
『ミミル』
「――ん?」
声を掛けられてしょーへいが来ていることに気がついた。
ダンジョン一層の入口部屋にいるのもあって、特に魔力探知などをかけていなかったので仕方がない。
『ひるごはん。みせ、もどる?』
どうやら、昼食の時間になっていたようだ。
まだ乾燥させた棉の実は残っているが、昼食の時間と言われるとなぜか小さく腹が鳴った。しょーへいには聞こえていなかったようでよかったが、聞かれていたらまた何やら温かい目線を向けられていただろうな――。
◇◆◇
昼食はまたしょーへいのスマートフォンを使って選んだ。ベントウの専門店らしい。
ここには鳥を揚げたものもあるし、トンカツを米の上に乗せて卵をかけたものもある。このあと、ダンジョンに戻るつもりだし、追加の食事が必要になるのでしょーへいにいくつかまとめて注文してもらった。
そして、鳥を揚げたものが入っているベントウを食べていると、しょーへいから尋ねられた。
『ミミル、ちか、ひろい、なぜ?』
「すまないが、いま話すことはできない」
『はなす、できる、おしえる?』
「ああ、そこは約束しよう」
説明したくてもできないのだ。
各層の出口部屋に彫られた文字は古い時代にエルムヘイムで使われていた文字で書かれているので読むには困らない。だが、そこにダンジョン出入口に関する記述がないので、理由はわかっていないのだ。
しかし、出入口の部屋が大きく作られていることによる利点がいくつかある。その中でも重要なのは二つ。
ひとつ――資格審査窓口を設置できること。
エルムヘイムではダンジョン資源の収集を行う者たちを収集者と呼んでいるのだが、収集者になるための資格審査はない。
だが、ダンジョンの階層が定期的に入れ替わる高難易度のダンジョンに入るには熟練度が求められる。そこで、そのようなダンジョンの出入口ではスキルカードを使った審査が行われている。
その審査を行う窓口を地上ではなく、ダンジョンの出入口部屋に置くことできるのだ。
ふたつ――資源買取窓口を設置できること。
エルムヘイムではダンジョンは国の所有物となっていて、その管理運営は収集者組合が請け負っている。
ダンジョン資源の収集方法は、主に採集、採掘と魔物討伐の三種類。それら収集品はすべて収集者組合が買い取ることになっている。
買取金額から税を強制的に徴収するためだ。
農業、林業、漁業、牧畜等の第一次産業に就いている者たちも、それぞれの職業組合がある。
彼らも収穫してきたものをそれぞれの職業組合が買い取り、買取金額から税を徴収されている。
鍛冶、裁縫、家具木工、大工、革細工、彫金などの第二次産業も同様だ。
収集者組合で買い取られた素材は、関係する組合に卸される。
例えば、収集者が
収集者組合が買い取った
裁縫組合が買った糸は
こうして各職業から適正に徴税するための仕組みとして、上手く組合を利用している。
もちろん、私のように空間収納を持っていればダンジョンでの収集品の数を簡単に
だが、組合が職人たちに卸す値段は収集者から買い取った金額から税を差し引いた価格に設定される。例えば、一〇〇で買い取った
そして、八〇の
これでは収集者が空間収納などで数量を誤魔化して高い値段で
空間収納を持っていても、誰も誤魔化さない理由はここにある。
さて、この庭の地下につながったダンジョンの持ち主はしょーへいだ。
あくまでもダンジョンを他のチキュウ人に公開しない限り、これらの利点は得られない。
だが、よほどの理由が無い限り、しょーへいは地下ダンジョンを公開しないだろうな――。
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