ミミル視点 第31話(下)

 ダンジョン第一層の入口部屋でチキュウというこの星のことや、ニホンという国のことを教わり、次に私が魔道具だと思っていた様々なキカイのことを教わることができた。

 念話の魔法で繋がっているとはいえ、言葉が満足に理解できる水準で翻訳されない以上、説明するしょーへいも大変そうだし、理解しようと集中して話を聞かねばならない私も大変だ。

 それでもどうしても知りたいことが残っている。


 しょーへいのオンパ探知というものと、〝チン〟だ。


「次に、オンパ探知とはなんだ?」

『おんぱたんち、きこえる、ない、おと、だす――』


 私には魔力探知という技能がある。魔力の薄い膜を広げ、触れた他の魔力を検知するものなのだが、それだと大きさと魔力の強さしかわからない。

 だが、しょーへいの音波探知は魔物の大きさ、形まで確認できるらしいのだ。しかも空の魔物も含めてだ。


 しょーへいの話では、音というのは空気を振動させる波なのだそうだ。

 見えない空気の中で、波が発生する。それを、耳の中にある鼓膜というところが捉え、更にその奥にある器官の中で波の細かさ別に聞き取るというのだ。ズカンを見ると、耳の中にある巻き貝のような器官が描かれていてたのだが、それが音を感じ取る器官なのだろう。

 そんな話は初めて聞いたのだが、いろんな点でエルムヘイムが遅れていることは今日一日でよくわかった。信じるしかあるまい。


 さて、海だけでなく、湖や川であっても波は起こる。

 岸壁や、岩などに波が当たれば、それらの障害物が波を跳ね返す――それと同じように、音の波が当たると音が返ってくるらしい。こだまを例にされれば納得せざるを得ない。


 しょーへいの話では、その波が返ってくるまでの時間、大きさ、方向から魔物の位置を測定する――それが音波探知なのだそうだ。


 ただ、普段から聞こえる音ではうるさくて意味がない。

 しょーへいは、自分から発する音を人には聞こえないような音に波操作の加護で変換し、戻ってきた音を聞こえる音にまた変換しているそうだ。


「音の波を変換できるという技能が必要……ということか?」

『ん、そのとおり』

「――なんとっ!」


 魔法で音を出すというのはできるだろう。

 だが、その音を変換し、自分の耳に聞こえる音にするには魔法では難しい。

 これもしょーへいの話の中にあったことだが、音は一秒間に約三四〇メートル進むらしい。

 音が返ってくるまでの間、魔法を発動し続けないといけない。これは非効率だ。


 諦めざるを得ないだろう。


 だが、もうひとつの方はどうだ。


「では、チンはどうだ? チンとはいったいなんだ?」

『チン――むずかしい、いい?』

「もちろんだ――」



    ◇◆◇



 しょーへいの質問を聞いたがまったく理解できなかった。

 図鑑の説明を見ても複雑過ぎる。


 胸を張って「もちろんだ」などと言った自分を責めたい……。


 しょーへいの話によると、チンするにはデンジハというものを使うらしい。

 だが、そのデンジハとは何かという説明が難しいのだ。

 デンジハにはシュウハスウに応じてデンパ、カシコウセン、シガイセン、セキガイセン等に分類される。カシコウセンとは光そのものだそうだ。

 そして、特定のシュウハスウをもつデンジハを照射するとモノが熱を発するらしい。しょーへいがその原理の説明を始めたときには、もう頭の中がパンク寸前になっていた。


 しかし、デンジハを使って頭の中にある血液や体液を発熱させ、脳を破壊するというのがしょーへいの〝チン〟だということは理解できた。


 また、デンジハは波なので、静かな池の中に小石を落としたときにできる波紋のように、発生地点から同心円状に外へと広がってしまう。外へと広がると、自分自身にもデンジハを浴びることになって、身体に影響を受けることになるし、味方にもダメージを与えてしまうらしい。だから、収束させる必要があるそうだ。


 さて問題は、この〝チン〟を私が習得できるかどうかということなのだが、しょーへいもズカンなしでは説明できないのだから、そこまでデンジハについて詳しくないのだろう。

 だが、〝チン〟を実現できているということは、具体的なデンジハとやらの発生原理は関係なく、魔力を用いて魔素を操るイメージをつくり、それでデンジハとやらを発生させることができるということだ。

 つまり、私もデンジハのことをもっと理解できれば身につけられるかも知れないのだ。

 それがわかっただけでも大きな進歩だと言えるだろう。


 だが、駄目だ、頭が痛い……。


 デンジハの発生についての説明と、物質を構成するゲンシやブンシ、デンシ、ヨウシなどの言葉が難しすぎる……。


 やはり、チキュウはエルムヘイムから相当かけ離れたところまで進んだ文明を持っている。この知識を少しずつでも吸収していけば、私の魔法は更に進化を遂げることだろう。

 例えば、これまで扱うことが難しかった雷の力なども、自然界において発生する仕組みがわかるかも知れない。


 最初はダンジョン出口の固定に失敗したことを少し悔やんだが、それは大きな間違いだったようだ――。

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