ミミル視点 第31話(上)
しょーへいと再びダンジョンへやってきた。
最初は魔物との戦いに慣れないのか、しょーへいは自信なさげだったのだが、〝チン〟は私にも真似ができない。中長距離での命中精度と発動速度の問題さえ解決できればほぼ無敵だろう。
それくらい、しょーへいの〝チン〟はすごい。
それに、しょーへいは弓や短剣の技能を持っている。ダンジョンもなく、見る限りとても平和な街で生活をしているというのに、どのようにして弓や短剣の技能を身に着けたというのだろう。とても不思議なことだ。
だが、まだまだ〝チン〟を持て余しているようで、スライムを爆発させていた。とにかく、大事に至らなくてよかった。
沸騰した消化液の酸を被れば、悲惨なことになっていただろう。
三〇匹ほどのスライムをしょーへいが葬ったところで、どの程度魔力を使ったか尋ねてみたが、ほとんど消費していないようだ。
意外にも〝チン〟は、魔力消費の少ない攻撃なのかも知れない。
例えば火球の魔法――。
魔物一体、もしくは周囲を含めて焼いてしまえるくらいの火力が必要になる。とても派手で、強力な魔法なのだが、実に効率が悪い。魔物一体を焼き尽くすだけの火球を作るとなると、火球を維持しつつ、大きくしなければならない。その結果、かなりの魔力を消費してしまう。
私が無属性の魔力砲を使ったり、風刃を使うことが多いのは効率が良いからだ。共に、魔力を消費するのは発動する瞬間だけでいい。
一方、しょーへいの〝チン〟は発動してからの魔力消費量が極端に少ないのだろう。全然疲れを見せることがない。いや、もしかするとしょーへいの魔力量が多いのかも知れないな。
いずれにしても続けて三〇匹もスライムを倒したのだ。少し休ませるとしよう。
ついでに今まで教わってこなかったことを教えてもらおうではないか。
◇◆◇
一度、休憩と称して第一層の入口部屋へと戻ったしょーへいに対し、改めていろいろと尋ねる。
「しょーへい、この世界……しょーへいの世界のことを教えてくれ」
『ん、いい。ほん、だす』
今日、本屋に寄って買っていた本を出せばいいんだな。
そういえば空間収納にしまったままだ。
「これでいいか?」
『これ、こっち、しまう』
二冊出しておいてもいいだろうに……細かなやつだ。どうせあとで両方ともしまうのだから、同じことだと思うのだが。
まあ、いい……。
『さいしょ、にほんご。せかい、げんご、すうせん――』
最初は言語の話から始まった。
まとめると、この世界はチキュウという星で、しょーへいの家はその中にあるニホンという国――その国の王都がおかれた場所にあること。ニホンではニホンゴという言語が用いられていて、他国へ行けば違う言葉を話すこと。
驚いたのはチキュウは海と陸地の割合が七対三――エルムヘイムに比べて陸地が多く、人口は数十倍はいるという。
簡単だが、このチキュウとニホンのことを教わった私は、いよいよこの世界の魔道具のことについてしょーへいに尋ねる。
「では、基礎的なことはまた別に聞くとしよう。次に教えてほしいのは、今日までに見た様々な魔道具のことだ」
『まどうぐ、なに?』
「そうだな……まずは、センタクキだ」
『チキュウ、まどうぐ、ない。きかい、ある』
――は!?
魔道具ではないというのか?
機械というのは――魔石機関がついていない、ただの機械のことだろう?
『ナイネンキカン、モーター、どうりょく、うごく――』
な、ナイネンキカン?
なんだそのナイネンキカンとは……。
◇◆◇
まず、ナイネンキカンとは他国語でエンジンと呼ぶらしい。精製された油と空気を混ぜ合わせ、着火することで発生する力を運動力に変えるものだそうで、ジドウシャの動力源だという。
そして、モーターはデンキというもので軸を回転させるもの。あの動く階段、ドライヤア、センタクキ、ジドウドアにもモーターが組み込まれているそうだ。
しょーへいがズカンという本を買っていてくれたおかげで、これらの機械も挿絵をみながら説明を受けることができ、わかりやすかった。この図鑑の力は本当に大きい。
ん、まてよ?
まさか、しょーへいはこうして図鑑を使って説明するために「家に帰ってから教える」と言っていたのか?
だとしたら申し訳ないことをしてしまった。
そう、トンカツを……トンカツを一切れ、奪ってしまった。
あの柔らかいトンカツは既に私の腹の中――だが、こぼした山羊乳のことを嘆きながら余生を過ごすわけにはいかない。
とはいえ、食べ物の恨みは恐ろしい。フレイヤは一二〇年前に私がたった一切れくすねた燻製肉のことを未だに恨みがましく言ってくるくらいだからな。どうしたものか……。
ま、まぁ……しょーへいは大人の男だ。寛大な心を以て私に接してくれることを祈ろう。
いや、ちょうどいい……食事や風呂、服など本当に世話になっているので、ダンジョン内での戦闘に耐えうる服を作ってやるつもりだったが、他にも何か作ることにしよう――。
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