第四章 素材収集

第31話

 俺たちはダンジョン第一層にある転送ゲートへと戻っている。

 まとめて28匹もスライムを倒したというのもあって、俺の疲れを取るという建前の下、休憩を兼ねて地球のことをミミルに教えることになった。

 もちろん、今日買ってきた図鑑を使ってだ。


「まず初めに、俺が話す言葉は日本語という言語。この世界に数千ある言語のうちのひとつだから、他の国にいけばまた違う呼び方になるものがたくさんある。

 たとえば、俺たちが住むこの星は、地球という名前で呼んでいる。イタリアやスペインという国に行けば、テラと呼ばれているし、イギリスやアメリカなどの国ではアースになる。

 あくまでも日本語で話すことになるので、他国では通じない可能性があることを理解しておいてほしい。

 それで……」


 俺は魔力操作スキルを伸ばすため、魔力の循環訓練をしながらミミルに地球のことを説明した。


 海の面積は、表面積の七割を占めていること。

 ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸に加え、年中雪に閉ざされた南極大陸があること。

 人口のこと、国家が約200あること。

 ここは日本という、ユーラシア大陸の東側にある島国であること。

 この国だけで約一億二千万人が暮らしていること。

 この国は国土の約三分の二が森林であること。

 北海道、本州、九州、四国の大きな四島に加え、七千に近い島があること。

 明確な四季がある美しい国であること。

 大規模な戦争があったこと。

 この街は最もその戦争の被害が小さい場所だったこと。

 日本語という言語は最も習得するのが難しいとされていること。


 30分ほどかけて、地球と日本といういまいる場所について話した。

 つぎは、文明についての話だ。

 図鑑があるので、調べながら話すことができる。

 まずは蒸気機関から始まった内燃機関について、次に電気とそれを用いた家電製品のこと。

 原油のこと、そこから作られる各種の油と、化学繊維やプラスティック、ペットボトルのこと。

 具体的な方法や原料などは簡単に済ませたので、内容は大雑把だ。


 ミミルは真剣な顔をして、俺の話を聞いていた。


 とにかく好奇心が旺盛で、知りたいと思ったことは深く掘り下げてまで自分のものにしたいらしい。学者肌とでも言えばいいのだろうか……。

 さすがに俺もそこまでは付き合ってられないが、細かなところはまた帰ってから教えると伝えた。

 モニターとストリーミングデバイスが届けば、ブラウザを使ってウェブサイトを検索して調べることもできるので、明後日以降にじっくりと教えることにしよう。


 休憩がてらの地球説明会が終わるころ、俺の魔力操作もなかなか良くなってきていた。

 魔力操作をしながらミミルの話を聞く。そして、考えてこちらも話をする。

 これが効果絶大だ。余計な力が抜けて、必要以上に魔力を込めずにできるようになり、魔力そのものの流れがスムーズになった。

 するすると身体の中を流れるような感覚は、実に悪くない。


 あとは指先にひとつ、体内を循環する魔力をひとつ作り出して、ぶつけることができれば魔力を打ち出すことができるようになるだろう。

 ミミルの場合、衝撃波が発生しているくらいだから音速を越えているはずだ。百年以上生きているミミルだからこそできる芸当だ。さっき教わったばかりの俺ができたとしても、秒速一〇メートルといった程度だろう。

 ただ、出口を小さくすればそれだけ強い魔力が打ち出せるとミミルは言っているし、もっと小さな魔力の塊を動かすようなイメージで練習することにしよう。



   ◇◆◇



 ほどほどに休憩して、また草原フィールドに戻ることになった。


 今度は、少し歩いて移動する。途中、ツノウサギが出てくれば倒すのだが、もうスライムやオカクラゲは相手にしないようだ。明確にレベルなどというようなものがあるならば、レベルいくつまではこの敵で――などという慎重な進め方もあるかも知れない。だが、カードをみたところで加護とスキル程度しか確認できないので、感覚的なものでも進むのだろう。

 まあ、ミミルはこのダンジョンを制覇している管理者なのだから、ついていけば問題ない。


 やがて、草原の中に小川が流れているのを見つけた。

 特に、橋を掛けなければいけないような深さもなく、流れも緩やかだ。幅も一メートル程度と何か心配するようなほどのものもない。

 小川を覗いてみても、特に魚のようなものは見当たらないし、大きな生物もいない。


 念の為にミミルに確認だけはしておく。


「この川に生物はいないのか?」

『ここ、まもの、ない。あっち、いる』


 ミミルが指す方向を見ると、同じような景色が続いているだけだ。


『ほか、かわ、くる。ふかい、ひろい』


 懸命に川が合流する様子を伝えようと、身振り手振りを交えて説明してくれた。


 この草原、いったいどのくらいの大きさがあるんだ?


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