ミミル視点 第14話
『ダンジョン、みる』
しょーへいがダンジョンに興味を持ったようだ。
恐らく、私のことをまだ信用していないのだろう。
異次元にあるダンジョンに接続するためには魔法を行使する必要があるが、この世界には魔法を使うために必要な魔力の素――魔素が極端に薄い。恐らく魔法を使える者はおらんだろう。つまり、この世界にはダンジョンは存在しないということ。
ならば実際にダンジョンを見て事実確認したいという気持ちはよく理解できる。
そんな経緯で実際にダンジョンにしょーへいを連れてきた。
最初にダンジョン内の魔物を倒せばしょーへいは加護を得ることができるはずだ。それに、これまで魔素がない世界に生きてきたので、身体に魔素を溜め込んで魔力を生成することもできるようになる。
第一層に立ったときのしょーへいは見て解るほど感動していた。
純真な瞳、口から溢れるように出る震えた声。
何度も初めてダンジョンに入る者たちを見てきたが、多くは同じ反応を見せる。
それはそうだろう。穴の先にいままでに見たこともないような景色――想像を絶する世界が広がるのだから。
このダンジョンの第一層入口部屋を出ると岩も枯れ木も一切なく、ただただ広がる広大な草原。このような景色はエルムヘイムにも存在しない。どこかの異世界にある環境を複製して作られているというが、現実にこのような景色が見られる場所があるとはなかなか信じ難い。
さて、このダンジョンは少しズレた場所に入口ができているので最初に接敵するのはホルカミンだ。なかなか大きな魔物なのだが、ツノを使った直線的な攻撃と、後ろ脚による蹴りを武器にしている。蹴られると肋骨にヒビが入ることもあるので、なかなか侮れない魔物だ。
安全のため、私が魔力玉を飛ばしてホルカミンを気絶させる。
首を切るか、心臓を突いて絶命させれば魔石を残して霧散するのだが、その作業はしょーへいに任せることにしよう。
魔物とはいえ、生きて動いているものの命を刈り取るということを躊躇うものが多いからな。
しょーへいの度胸というのも確認できるいい機会だ。
すると、しょーへいは全く躊躇うことなく首を切り裂いてみせた。
経験があるのだろう。長い耳を掴んで後ろから首を切り裂けば返り血を受けずに済むということも知っているようだ。
そこでしょーへいが苦悶の声をあげる。
ダンジョン、最初の洗礼だ。
最初の獲物を倒すと、魔素を大量に取り込み、身体の最適化が始まる。
例えば、食事で得られる栄養と、魔素の二つから身体の活動力を得られるよう、作り変えられる。また、筋肉組織や消化器官、骨格なども最適化が行われ、徐々に適度に筋肉質な身体へと変わっていく。
なお、一定年齢に達していない者がダンジョンで洗礼を受けた場合はその時点で成長が止まる――私のように。
そして、ダンジョン外に住む生物は、ダンジョン内に棲む魔物を初めて倒したときにダンジョンから加護を得る。特定の技能や魔法の習得が可能になるというものだ。
ただ、加護というのはあくまでもエルムヘイム人がそう呼んでいるだけで、立場が変われば呪いのようなものだ。事実、私も「知」などという加護を得ていなければ、たった一人のエルムヘイム人として異世界で暮らす事にはならなかったのかも知れないのだからな。
こうしてしょーへいは波操作という意味不明な加護を得た。
私も最初はどのような加護なのか理解できなかったのだが、しょーへいは波が意味することを理解し、すぐに魔法を発動させてみせた。
音を使って周辺を探知するというものだ。
オンパ探知というらしい。
これがデタラメなのだ。
もちろん、私も魔力を使った探知はできるのだが、精度が違う。
魔力探知は魔力の薄い膜を広げ、その膜に接した魔物が持つ魔力の大きさ、強さなどを知ることができる。
だが、しょーへいのオンパ探知は違う。
魔物の大きさや形がわかるようなのだ。
しかも、全方位に向けて音を出すので、魔力探知では不可能な上空の魔物まで探知できる。
そして、更にデタラメな魔法をしょーへいは創造した。
手をかざしただけで目の前でラン・マネットが死んだのだ。
火や水、氷、土、風……魔力で魔素に干渉して事象を発生させ、攻撃するのが攻撃魔法だ。
魔素に干渉せずに魔物を倒すなど、そんな魔法は存在しない。
おっと、気がつけば口をあんぐりと開き、大きく目を瞠いたまま呆然としていたようだ。
「い、いま……なにをした?」
『ん――チン』
〝チン〟だと?
なんだそれは!?
そんな言葉だけでは解るわけがなかろう!
私の加護「知」が新たな知識を求め、身体の芯から熱がこみ上げる。
〝チン〟とは何か?
なぜ魔物が死んだのか?
知りたい。その知識で自分の魔法を創ってみたい!
「〝チン〟とはなんだ?」
『デンシレンジ、げんり、まね』
また何やら聞いたことがない言葉――デンシレンジとやらがでてきたぞ。
「それは何だ?」
『りょうり、どうぐ。あした、みせる』
「明日だな! 約束だからなっ!」
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