60 私がお前を喰うよ

 亘は物音と体を触られる感触で目を覚ます。ぼやけた視界で暗い部屋を見ると、誰かが自分を見下ろしている。時々、ミシェルが同衾どうきんしてくることがあるので、寝ぼけながら注意する。


「おい、ミシェル。またかよ。布団に入ってくんなよ」


「やっぱり、彼女とはそういう関係なの?」


 可愛らしい声に亘は暗闇に目をらす。ほんのり照らされた金髪の髪に小さい顔立ち。素っ裸で自分に馬乗りになっているガブリエラの姿に亘は驚く。


「ガブリエラ!?」


「ミシェルとは普段、一緒に寝てるの?さっきは否定してたけど、本当は恋人なんだ」


「はぁっ?ちっ、違う!あいつが時々、もぐり込んで来るだけだ!」


「そうなの」


「てかっ、退いてくれよ!何してんだ?」


「試したいことがあるから、ちょっとだけ協力して」


 ガブリエラは再び亘にキスをして生気を吸いとった。ちょっとの量だけだったが、睡魔と重なり亘の体は脱力して動かせなくなった。まぶたが重くなり眠ってしまいそうだったが、なんとか意識を保った。


「なに…して…?」


「大丈夫、善くできるようにするから」


 ガブリエラは亘の服をたくしあげ、直に肌に触り舌で舐めた。同種の舌は水分を纏っていないので、濡れることはないのだが、ざらりとした肉がはい回っているようで不思議な感触がした。胸や肋骨ろっこつを舐めて、へそを通って下半身を触りはじめた。

 亘はまずいと思い手を伸ばす。


「待って、だめだ…」


亘が止めるのも聞かず、ガブリエラは起き上がって亘のスウェットを脱がそうとした時、


低い声が割り込んできた。



「そこまでよ、ガブリエラ」



 声に反応しガブリエラは動きを止めてドアのほうを見る。壁に寄りかかり腕を組んだミシェルが冷たい視線を向けていた。


「まったく、油断も隙もないね。亘をつまみ食いしただけじゃ足りなかった?」


 冗談混じりにガブリエラの夜這いを笑い飛ばすミシェル。だが、睨むその目は笑っていなかった。


「まぁ、同種の行動としては間違ってないけど、亘に手を出すことは許さない。

嫌がるその子をそのまま喰うつもりなら、


私がお前を喰うよ」


 ミシェルの鋭い眼光が刺さる。

 亘は彼女の本気の目に恐怖し、重たい体を起こしてガブリエラの肩を掴んだ。


「だめだ!やめろ!」


 ガブリエラを庇う亘の姿にミシェルも殺気を押さえた。ガブリエラは沈んだ顔で俯きぼそりと呟いた。


「私はここにいちゃいけないの?」


 てつ色の瞳が落胆した表情を更に暗くする。


「私やっぱり何かおかしいの。私が"異種"だから?」


 ガブリエラの溢す言葉にミシェルは顔色を変える。


「誰にそんなこと言われたの?」


「ここに来る前、新宿にいた同種に言われた。"異形"のものだって」


 顔を伏せて黙ってしまったガブリエラ。ミシェルは彼女が脱ぎ捨てた服を拾って肩にかける。


「ガブリエラ、服を着て。

ベットに戻ってくれる?大丈夫、私は君を追い出したりしないから」


 ミシェルはガブリエラを連れて部屋を出ていった。亘は虚脱した体をベットに戻すと、すぐに意識は途絶え眠ってしまう。

 次の日、だるい体で何とか起きて学校へ行ったのを覚えている。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る