59 恋人♡

 ミシェルはガブリエラを自宅に招いた。彼女に浴室を提供し、亘の服に着替えてもらい夕食を一緒に食べた。初めて食べるグラタンとスープに戸惑いながらもガブリエラは熱いペンネに口をつけた。


「存在してどれくらい?」


「6日。栃木で存在した。車の事故があったみたいで、崖下に転落した車に乗ってた女の子と、入れ替わったみたい」


 ふと考えるが、同種の元になった人間はその後どうなるのだろう。

 事故があったということは当然捜索されるだろうし、発見されたその遺体は着衣は何も着ていないことになる。そんな状態で見つかってしまうのか、それとも発見すらされない場所に投げ出されてしまったのだろうか?


「それからどうしたの?」


「東京に行けば、同種の集まりがあるだろうって思って、歩いて東京に向かった。3日かかって新宿に着いたんだけど、なかなか同種が見つからなくて」


 その間寝泊まりはどうしていたのだろう?100㎞の道程を歩いたということは、当然お金は持っていない。一人で野宿し行動することにとてつもない心細さを感じる。


「ようやく同種が営んでる店を見つけて、同種に会えたんだけど、"あなたはここにはいられない"って言われた」


「外国の人を元にした同種は都内にはいられないの」


「同じ説明をされた。それでこの店の住所を教えられて、ここまでは電車で来た」


「そう、大変だったね。しばらくは家に泊まるといいわ。その間に…いや、それは後で話しましょう」


 ミシェルは何かを言いかけて止めた。食器を片して食後の紅茶を入れ、ダイニングテーブルに並べる。ダージリンを飲みながら今度はガブリエラから質問してきた。


「私も質問していい?」


「どうぞ」


「彼はあなたの何?」


 亘を見ながら聞くガブリエラ。ミシェルはにやつきながら答える。


「恋人♡」


「親子だろ!」


 気色の悪い冗談を言うミシェルに亘は素早く訂正する。


「同種に血縁はつくれないはず」


「人間の戸籍で養子にした子よ。私が産んだ子供じゃないわ」


「親子の振りをしてるってこと?」


「違うわ。亘は私にとっては本当の息子なの。種族が違っても血縁以上の繋がりがあるの」


「よくわからない。なぜそんなことをするの?」


 つぶらな瞳でガブリエラは問いかける。ミシェルは手を組み真面目に答えた。


「君も生きてみればわかるわ。

血縁ができなくとも、家族は持てる。それほど愛おしいと思える相手に出会えることもあるの。

まぁ、気負わず気ままに生きてみてよ。時間はいくらでもある。良いことも悪いことも、これから先たくさん経験できるわ」


 それ以降、ガブリエラからの質問はなくミシェルは彼女に部屋を譲り就寝させる。




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