61 かわいいー!

 三日後の日曜日。

 新しく来た同種を他の同種に会わせるために、ミシェル達は店内で待っていた。真っ先に来たのはシヴァであった。ガブリエラと対面し軽く挨拶を済ませると、ミシェルと共に奥の厨房ちゅうぼうへ入ってしまう。


「本当に同種なのか?」


 真っ先にそれを確認した。

 同種は大抵20代後半の姿で存在するはずなのに、彼女の姿は幼すぎるからだ。


正真正銘しょうしんしょうめいの同種よ。来た直後に亘に夜這よばいかけてたし」


「見かけによらず積極的だな」


「ふん!あんな勢いだけの小娘より私のほうが100倍テクがある!」


「なんの張り合いだ」


 亘にちょっかい出されて不満なのか、悪態をつくミシェル。シヴァは彼女に聞かれていないかと不安になり店内を覗くが、亘と一緒に何かの画像を見ていた。


「それでどうするんだ?あんな幼い容姿じゃまともに働けないぞ」


「だよね~風俗で働かせたら捕まるし、かといって一人で暮らさせるのも心配かな~」


 同種が手っ取り早く生きていくのに最適な職業は風俗や水商売である。

 人間関係を抜きにして人を誘えるので、そういう店で働くか自分で経営している同種もいるくらいであった。けれど、ガブリエラの場合、どんなに年齢を引っ張っても二十歳以下にしか見えなかった。


「今、考えてる案としては誰かの子供ってことで、戸籍を作って共同生活させることかな~」


 今のガブリエラには当然ながら戸籍がない。存在したばかりの同種は皆そうで、役所に口利きして偽造ぎぞうしてもらうしかないのだった。その場合の出生・家族構成・経歴は全てでたらめであるし、ある程度年齢を重ねたら作り替えなければならない。


「というわけで、シヴァ引き取ってみない?」


「こういう時は長であるお前が面倒を見るべきだろう」


「私はもう子供がいるからだーめ!それに亘の側にあんな同種がいたんじゃ教育上悪影響よ」


 "お前といるほうが悪影響だろう"と切り返してやりたかったが、10倍返しにされるので黙っておいた。ミシェルとシヴァが彼女のことで相談しているとドアベルが鳴り、赤毛の女性が入ってくる。


「こんにちは~ミシェル!新しい子がきたんだって!見に来たよ!」


 明るく挨拶しながら入ってきたキャシーに、亘とガブリエラは彼女のほうを見る。キャシーもガブリエラがくだんの同種だとすぐに分かり、その愛らしい姿に目を奪われる。


「かわいいー!ええ、こんなにかわいい同種がいるの!すごーい!」


 はしゃぎながら近付くキャシーに少し驚くガブリエラ。彼女の表情がいぶかしむのではなく純粋な驚嘆きょうたんであることに意外性を感じたからだ。


「お名前は?」


 しゃがんでガブリエラより低い目線で訪ねるキャシー。彼女に対してはガブリエラも完全に警戒心を解いた。


「ガブリエラ」


「私はキャサリン。キャシーって呼んで!」


「よろしく、キャシー」


「うん!よろしくね!ガブリエラ」


 キャシーはミシェルに呼ばれて厨房のほうに姿を消す。ミシェルは先程の説明を大まかに話して、彼女の今後のことについて話す。


「そっかー。ならさ、ミシェル!ガブリエラは私が引き取ってもいいかな?」


「え?まー願ったり叶ったりだけど、いいの?」


「うん!一人暮らしには広すぎる部屋だし。今、彼氏はいないし!ぜーんぜん平気だよ!

それにミシェルがわたるんを養子にしてて、何だか羨ましーなーって思ってたんだ」


 キャシーは元来人と一緒にいるのが好きであり、結婚までとはいかないが誰か特定の人がいたらいいなと思っていた。

 ミシェルとキャシーはガブリエラに話を持ち掛け判断をゆだねる。ガブリエラは迷うことなくキャシーとの共同生活に同意する。キャシーなら自分を色眼鏡で見たりしないと直感していたのだった。



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