25 私達の手で排除する!

 ミシェルはシヴァを拾って東区に向かった。海波うみなみ小学校に向かう途中で道路と隣接した跨線橋こせんきょうを見つけ路肩に車を停めてサミュエルの姿を探す。小学校とは反対側に犯人を追って行ったのだと推測し、階段を昇り向こう側でサムの名を呼びながら探し続けた。


「サーム!」


「サミュエル!」


 外灯の光もない暗い道路をミシェルとシヴァは夜目を使ってサミュエルを探す。するとシヴァが急に叫んだ。


「ミシェルっ!」


 ミシェルは振り返ってシヴァの姿を探す。階段下のかげに佇んでいる彼に駆け寄った。


「見つかった?」


 近付くとそこに人影はシヴァのしかなく、彼は振り向かず地面を凝視ぎょうししている。ミシェルもそこに視線を移すと服が落ちていた。

 脱ぎ捨てられたにしては不自然でシャツからジャケットまでそでが通っており、ズボンにはベルトがくつには靴下が入れてあった。まるでマネキンのない展示物のようにひと一人分の着衣がそこにはあった。


「サ、サミュエル?」


 シヴァの表情は暗くなり拳を固く握り締める。ミシェルは近寄り崩れ落ちながら服を手に取った。


「間違いない。昨日サムが着てた服だ。けど、こんなことって…」


 サミュエルは消滅してしまった。

 死んだのではなく消えたのだ。

 同種の肉体は生気を全て失ってしまうと、その形状を保てずにちりとなって跡形もなく消えてしまう。ミシェルはサミュエルの服を握り締め悲しんだ。まるで泣いているかのような声を出し失意に打ちひしがれた。






 その日の内に蜂須賀はちすかに連絡をとりサミュエルが犯人を見かけた辺りを捜査員に張り込ませ。自分達も行動を共にした。けれど3日経ってもそれらしい人物は現れず、手がかりは途絶えてしまう。どうやらサミュエルに付けられた時点で犯人は標的を切り換えてしまったらしい。

 我が物顔で街を闊歩かっぽしているようだが、危機を察知する感覚は優れているらしかった。悔しさを噛み殺しミシェルは同種達を店に集めた。



 午後4時に6人の男女がランコントルに集まった。

 いずれも見目麗しい美男美女ばかりで、しかもミシェルの元に来るのは外国人をもとにしている同種達ばかりなので、様々な国の人種がそろっていた。皆集められた理由はわからなかったが、恐らく殺人犯のことだろうとは予想していた。


「サミュエルがわれた。今、連続殺人を犯している同種にだ」


 サミュエルの消滅に皆驚き青ざめた。ミシェルだけでなく隣にいたシヴァの重い表情をしていた。


「サミュエルは犯人らしき人物を尾行した末に返り討ちに遭った。同種を塵芥ちりあくたにできるのは同種だけ。奴は人間だけでなく私達にも容赦なく牙を向けるらしい。

3日間周辺を張り込んだけど姿を見せなかった。どうやらよほど勘の働く奴なんだろうね」


 腕を組み淡々と話すミシェル。

 だが、その内に沸々と煮えたぎる感情を秘めていた。


「同種殺しは最も無意味な行為だ。私達の少ない生気を吸い取ったって腹の足しにもならない。けど、奴はサミュエルに後を付けられたという理由だけであの子を襲った。

邪魔だから排除した!

これは絶対に許されることじゃない」


 ミシェルの怒りに皆息を呑む。ひしひしと伝わる憎悪に緊張感が走る。


「"粛清しゅくせい"なんて正義感を掲げるつもりはない。けれど奴の逮捕を悠長ゆうちょうに待ってることなんて出来ない」


 "粛清"とは社会にそぐわない同種を同胞の手で始末することだ。ミシェルは紺青こんじょう色の鋭い目をたぎらせる。


「奴を見つけ出し私達の手で排除する!

みんな協力してほしい。犯人を追い詰め裁きを下しその凶行きょうこうを止めるんだ」


 皆頷き、サミュエルの報復を誓った。



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