21 救急車は呼ばなくていい
食器が落ちる音と床に何かが倒れるような音が
「ミシェル?おい!どうしたんだよ」
駆け寄ってミシェルの容態を視る。意識はあるのだが、ぐったりとしていた。体を起こそうと肩に触れたら、ひどく冷たかった。
「大丈夫。ちょっと目眩で倒れただけだから」
平気だというミシェルの顔色は白く色味を帯びてなかった。亘は自分で対処できるものではないと判断し助けを呼ぼうとした。
「救急車呼ぶから、ちょっと待ってろ!」
立ち上がろうとした亘の腕を冷たい手が引き止める。
「まって、大丈夫だから。救急車は呼ばなくていい」
「何言ってんだよ!こんなに体温が低いのに!いいから、待ってろ!」
ミシェルの手を振りほどき、亘は奥にある固定電話に手を伸ばす。店用に引いている回線電話で119番にかけ火災か救急か聞かれる。救急と答えしどろもどろに住所を答えていると、いきなり受話器を取り上げられた。
振り向くとそこには短髪の男性が立っていた。
「すみません。こちらで対処できるので、救急車は必要ありません。はい、お騒がせして申し訳ありませんでした」
丁寧に謝って受話器を置く。彼が何者かわからないが、現状を説明しなければと思った。
「あの!ミシェルが倒れてるんです。病院に連れてかないと」
「救急車は呼ばなくていい」
そう答えて彼はミシェルの元へ近寄る。ミシェルの上半身を起こして、そのまま腰と足に腕を回し彼女の体を持ち上げる。ミシェルの部屋のベットに横たわらせ靴とエプロンを取って1階へ戻す。
今度はリビングへ行くと食器棚に置かれた鍵つきの金庫に番号を打ち込み、中にある赤い袋を取り出さす。袋の中身をコップに移しミシェルの部屋へ持っていく。まるで勝手知ったる我が家のように動き回る彼を亘は呆然と見ていた。
ベットで横になっているミシェルの体を起こし、先程の液体を口元に持っていきゆっくり飲ませた。
「ごめん、ありがとう。それにしても、タイミングよく来てくれたね」
「家具の入れ換えをしたいから来いと言ったのはお前だろう」
「ああ、そうだったね」
再びベットに体を預けたミシェルに布団をかけて少し休むように言って彼は部屋を出た。
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