裏切り

10 デートだね

 店での片付けも済ませエプロンを脱いで制服の上着を着ていると、ミシェルに声をかけられる。店内に戻ると彼から茶封筒を渡される。


「はい、今月の給料。受け取って」


 渡された袋の中身を見てみると確かにお金が入っていた。万札が何枚かあり恐らく6万ぐらいは入っている。大金を手に少し緊張したが、同時に誇らしさもあった。


「何に使うの?欲しいものがあったらなんでも買えるよ」


「別にない」


「そーお?服とか買ったらいいのに。亘、いつもくたくたな服着てるし」


「施設にある服はほとんどが寄付きふかお下がりなんだよ。みすぼらしいって思ってんだろ?」


 目を伏せて口ごもる亘。服装のことで卑屈ひくつになるのは、以前指摘されたことがあるからだろうか。


「そうじゃないよ。これから寒くなるし、もっと暖かい服を着たほうがいいと思って。亘は寒いの苦手でしょ?それに自分で稼いだお金なんだから、気兼ねなく使えるよ」


 ミシェルの気遣いに亘はひがんだことを後悔する。なんでも卑屈に考えてしまう自分が恥ずかしくなった。


「そうだな」


「ねぇ、じゃあさ!明日一緒に買い物に行かない?祝日だしお店も定休日だし!どお?」


「え?まぁ、いいけど」


「やったぁ~、じゃあ明日は亘とデートだね」


「デートって…」


「男女が一緒に出掛けるんだからデートでしょ?なに着てこっかな~楽しみ!」


 うきうきするミシェルを見て、亘も少し出かけるのが楽しみになった。お店で少し課題を手伝ってもらった後、彼女の車で施設に帰った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る