06 もう……もたないの
夜の8時を回り店の片付けをしていた。
「あの、店もう閉まってるんですけど」
「ミシェルは?」
ぶっきらぼうにミシェルの
「出ていていません。すぐに戻ると思います」
「………きみ、何?」
店を訪れるほとんどの者は亘の存在に驚く。今までミシェル一人で
「えっと、ここでアルバイトをしてます」
「あいつの提供者?にしちゃ若いね」
言葉の意味が分からず
「まぁ、あんたでもいいか」
彼女は亘の肩に手を置く。その時、亘は驚いた。彼女の手が異常に冷たかったからだ。およそ人の肌の温度をしておらず、氷の
「もう……もたないの」
緑色の瞳に見下ろされ亘は体が強張った。
「ケリーぃ!」
「その子から手を離して!今すぐ!」
普段の柔らかい表情は消え鋭い眼光で相手を睨み付けていた。ケリーと呼ばれた女性は亘から手を離し腕を力なく下げる。ミシェルはケリーを睨み付けたまま亘のもとまで近付く。亘に視線を向けるときはいつもの優しい顔に戻っていた。
「亘、もう上がっていいよ。お疲れさま」
「はい、お疲れさまでした」
亘は二人のことを見比べてから調理場の方へ姿を消す。亘の気配がなくなったことを確認してから、ミシェルはケリーに視線を向ける。
「座って、来るなら連絡してよね」
「あんたの番号しらない」
「お店の番号なら知ってるよね、血でいい?」
「それじゃ足りない。人から吸わないとダメ」
ミシェルはケリーの様子をじっと見つめる。顔は色味がなく手にも力が入らないようだった。ミシェルは
「はぁい、コウタさん。急に電話してごめんね。今から店に来れる?うん、そう、そっか。ううん、気にしないで。また食事に来てね。じゃあ!」
連絡相手に何かしらの交渉をして断られたようだったが、構わず次の相手に連絡をとる。ケリーはその間テーブルの木目を見つめていた。
「そう、ありがとう。じゃあ待ってるから」
電話が終わりミシェルはケリーに声をかける。
「今からひとり来てくれるって」
「そう…」
「そもそもこの前人を紹介したよね。その人はどうしたの?」
「私に血を与えるのは嫌だって」
ミシェルは再び重い溜め息をつく。悪さをした子供を
「あのね、ただ血を吸うだけじゃだめだって言ったでしょ?感謝と
素材はミシェルほどではないが美人なケリー。だが、服装はジャケットとジーンズという地味な組み合わせの上、髪は短く男っぽかった。
「なんでそこまでしなきゃいけない」
「それが私達の生きていく術だからよ。慣れないなら血で持たせられるように、小まめに訪ねて来ることね」
「めんどう」
これ以上つつかれたくないのかケリーは体をミシェルの方から反らす。しばらく沈黙が流れる。普通なら自分を訪ねて来たものには一杯奢るのだが、ケリーにはお茶も出さなかった。
「あいつは何なの?」
話しかけたのはケリーだった。亘の存在を疑問に思い質問する。
「うちで働いてる子だよ」
「あんたの
「やめて!そんなんじゃない!そんな風に言われるのは
ミシェルは声を荒げる。彼女が感情を乱すのを見てケリーは少し亘の事に興味を持った。
「なら、なぜ側においているの?」
「あなたには関係ないでしょう」
ミシェルはケリーの質問を突っぱねた。誰に対しても愛想がよく優しい態度で距離をとっているミシェルが、亘に関してはどこか
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