13. 追放騎士の想い②
「え?」
ぽかんと聞き返した私に、ライトは言葉を続ける。
「聖女様――アンリエッタは、いつだって寂しそうにしてた。
誰かに『聖女様』って呼ばれるたびに、悲しそうな顔をしてた」
「そんなことは……」
否定はできない。
そんな印象を与えてしまった時点で、それは私の落ち度だ。
「言えなかったのは、俺の方だ。
憧れの聖女様とお近づきになれるかもしれない。
気が付かなかったフリをしたのも、最初はちょっとした思いつきだったんだよ。
それがあんなに嬉しそうな顔をされちゃうとさ――」
「初めてでしたから。
聖女、という肩書き以外の部分を見てくれた方は」
心躍るような時間だった。
慰問パーティーの帰り道のことは今でも鮮明に思い出せる。
「俺も嬉しかったんだ。
憧れてた人が、俺だけに笑顔を向けてくれる。
誰にも見せていない表情を浮かべている。
――その表情を、いつまでも独り占めしたいと思ってしまったんだ」
聖女だと知られていないと思っていたからこそ、あそこまで気楽に振る舞えた。
相手が自分を聖女だと認識したなら、私の方から壁を作ってしまったかもしれない。
「そんなことを考えていたんですね」
「特別でありたいと思ってしまったんだ。
見ているだけで幸せだ、なんて言いながら強欲だよな。
ああして話す時が、本当に心地よかったんだ」
刹那の楽しい刻を守るための小さなウソ。
両者の秘密は奇跡的なバランスで保たれ、煌めく宝石のような大切なひとときを生み出したのだ。
「私も同じです。
ここでライトと過ごす時が心地よかった。
この国でどれだけ望んでも得られないものを、ライトは与えてくれる気がしましたから」
「どれだけ望んでも得られないもの?」
「……秘密です」
私はライトが好き。
愛する人に愛されたいなんて、聖女らしからぬ俗な願い。
ましてこれから国を追放されようとしているのに、伝えても困らせるだけ。
この想いは、最後まで胸の奥にしまっておかなければならない。
「俺のことは話した。
次はアンリエッタの番。
国外追放のこと、話してもらうよ?」
気になって仕方がないとばかりに、再度ライトが私に聞く。
「私の番と言われても。
何も面白いことはありませんよ。
ふつうに騎士団長に偽聖女の汚名を着せられて追放されただけです」
ライトに権力が戻ることを恐れたのが動機だというのは伏せて。
私は事情を話した。
あまりに私がどうでも良さそうに話したからだろう。
ライトはポカンと口を空けていたが、やがて表情を無くしただひと言。
「またあの野郎か。
よし、殺そう」
「ライト!? 落ち着いて!」
慌てて止めに走る。
ライトの仲間にも助けを求めた。
「アンリエッタこそ、なんでそんなに落ち着いてるのさ?
そんな目に遭わされて、黙って泣き寝入りなんて間違ってる。
そんな明らさまな冤罪、俺が晴らして見せる」
騎士団長は狡猾です。
下手に楯突こうものなら好都合と、今度は処刑されかねません。
「馬鹿なことをしようとしないでください!」
「馬鹿な事とは何さ!」
必死に止めようとする私に、ライトはムキになってそう返す。
ライトは聖女の待遇を改善するために、追放騎士などという不名誉な称号を付けられる羽目になったという。
これ以上、彼の人生を犠牲にすることはない。
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