12. 追放騎士の想い

 偽聖女・アンリエッタの話は、瞬く間に国中に広がった。


 ライトたちは混乱していた。

 自分たちが見てきた"奇跡"は、決して偽物なんかではない。

 戦場に降り注いだ神々しいまでの光を鮮明に思い出せる。


 混乱しているライトたちのもとに、国からの勅命が届く。

 それは偽聖女が会うことを望んでいるという知らせ。

 


「ライト、今日は別れを言いにきました」


 追放されることになった偽聖女との待ち合わせ場所。

 そこに現れたのはミントと名乗った、顔なじみの少女であった。




◇◆◇◆◇


「ライト、今日は別れを言いにきました」


 追放刑を言い渡されたときは、何も感じなかったのに。


 この人ともう二度と会えない。

 そう思うと、私は胸をギュッと締め付けるような切なさに襲われた。


(遠征でときどき会う間柄で良い。

 これからもずっと一緒に居たかった)



 彼の傍は居心地が良かった。


 今更になって気づいてしまう。

 こんな最後に気がついても、もう手遅れだというのに。

 私は、この人のことが――



「に、偽聖女ってどういうことだよ?」


 当然のように混乱しているライトに、私は今更ながらにポツリポツリと話し始める。



「黙っていてごめんなさい」

「……何があったか話してくれるよな?」


 驚いたライトの視線は、凍りつくほどに冷たく鋭い。

 自らの立場をずっと隠してきたのだ。

 当然の怒りだろう。



「騙すつもりはなかったんです。

 ライトの傍は、聖女の立場を忘れて過ごせる大切な場所でした。

 いつか話さないといけないとは思っていたんです。

 でも変えたくなくて。

 楽しい時を終わらせたくなかった」


 懺悔する私の言葉をライトは、



「いや、それは良いんだけど……」


 と遮った。

 頭にクエスションマークを浮かべる私に、




 困ったようにライトは頭を掻いた。


「ど、どういうことですか?」

「ごめん、ミント。……いや、アンリエッタ。

 最初に会った時から、君が聖女だってことには気が付いてたんだ」


 ライトは、バツが悪そうに目線をそらす。

 それから燃えるような目線でこちらを見ながら、



「そんなことより。

 聖女様を国外追放だと!?

 この国はいったい何を考えてやがるんだ!」


 怒りを隠そうともせず吠えるように。


「いやいや、そんなことより。

 気づいてたってどういうことですか?」

「国外追放をそんなこと呼ばわりかよ!?」


 当然だ。

 まるで優先順位が違う。



「どうして私の正体に気付かないフリをしてたんですか?」

「どうしてって……。

 だって、その方が嬉しいんでしょ?」


 恥ずかしそうにライトはそっぽを向いた。

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