11. 追放

「アンリエッタ。

 貴様が偽聖女だということは、既に調べがついている。

 よくもこれまで騙してくれたな!」


 いつものように魔獣討伐の依頼をこなし、城に戻ったある日。

 私を迎えたのは激昂した王子による断罪の言葉であった。


 王子の隣にはアルベルト。

 ライトに追放を言い渡した男は、自らの立場を守るためには他者を蹴落とすことにも躊躇がないらしい。

 私を思い通りに動かすことができなかったため、排除する方向で動き始めたらしい。



「偽聖女というのはどういうことですか?」

「とぼけるな! すべて騎士団長が話してくれた。

 貴様は我が国が誇る騎士団員の成果を、あたかも自分の実績であるように報告していたな!」

 

 王子に見えないよう、アルベルトはにやりと歪んだ笑みを浮かべる。


「聖女が好き勝手に豪遊するせいで、財政難に陥っているとも聞く。

 我が国でこれ以上の好き勝手は許さない!」


 そんなはずはない。

 国から与えられる報酬は、基本的には全て断ってきた。

 私のためにという名目で開かれるパーティーも、胃に悪いので止めてほしいと繰り返しと伝えてきたはずだ。

 アルベルトの息のかかった者が、意図的に悪意のある報告を上げたのだろう。



「聖女、いいや偽聖女・アンリエッタ。

 国を混乱に陥れた貴様は、世紀の大罪人だ。

 速やかに我が国から立ち去るが良い」


 王子から言い渡された追放刑。


 言い渡されて気づく。

 驚くほどに、この国に未練がないことに。


 これまでの恵まれた生活。

 すべては聖女を国につなぎ止めるための打算にまみれたもの。

 何の信頼関係もない打算だけで繋がった寒々しい関係だったのだ。



「分かりました。

 私の要求を呑んでいただけるなら、私は追放刑を受け入れます」

「貴様! 何か要求ができる立場だと思っているのかっ!?」


 王子は不愉快そうに怒鳴ったが、


「あやつは聖女と誤認されるほどの光魔法の使い手。

 戦いになったら我が兵の消耗も免れない。

 要求とやらを聞きましょう」


 アルベルトはそう言って強引に話を進める。

 この場で話を終わらせたいという魂胆が見え見えであった。



「……最後に、ライトに会わせてくれませんか?」


 国を追放されたら二度と会うことは出来ないだろう。

 せめて別れを告げさせて欲しい。


 ただ居場所が欲しかった。

 聖女の肩書きでなく、私自身を見てくれる人が欲しかった。

 愛が、ぬくもりが欲しかった。



「認めよう」


 追放者同士が会ったところで、今更何もできまい。

 そう判断したのだろう。



「もう少し賢ければ、幸せな最期を迎えられただろうにな」

 

 私の要求を聞いたアルベルトは鼻で笑った。


 厄介ごとが片付いたと満足げな表情。

 その様子を見て私は少しだけ哀れに思った。

 権力のみに固執し突き進んだ先には、いったい何があるのだろうか。



 私の行動は、傍から見ると愚かなのかもしれない。

 愚かでもバカでも構わない。

 誰が何と言おうと、私にとって大切なことは私にしか分からない。

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