10. 不穏な影

 それからというもの。

 私は聖女の権限をフル活用してライトたちをストーカーした。

 自らの任務をこなしたら、キョロキョロと彼の姿を探すようになっていた。


 特別なことは何もない。

 ただ他愛ないことを話すだけの時間。

 聖女であることを隠したまま、交流を続けることに罪悪感もあった。

 その時間は私にとってはとても大切なもの。

 かすかな罪悪感を抱きながらも、彼を探すことを止められなかったのだ。



「聖女様、もうおやめ下さい。

 あのような不浄なものと関わり続ければ、聖女様の信頼に関わります」


「国から頼まれた依頼は、きちんとこなしています。

 私が誰と話すのも勝手なはずです」


 困ったように私を諭すのは騎士団長のアルベルトであった。


 追放騎士と聖女が親しくしている。

 その噂を聞いて苦い顔をした者は多かった。


 ライトを追放したアルベルトはその筆頭であった。

 聖女の行動によりライトが権力を手にしたら、ライトを嵌めて追放処分を言い渡した自分はただでは済まされないと考えたのだろう。

 



「その愚かな振る舞いを、これ以上続けてみろ。

 しまいには聖女としての地位を失うことになるぞ?」


 焦ったアルベルトは、ついに直接的な脅しまで口にした。


「私も追放しますか?

 ライトを騎士団から追放したように」


 ギリッと歯ぎしりするアルベルト。

 敵意を持たれてしまったが、関係を修復しようとも思わなかった。




 それからというもの。 

 私の興味をライトから他に向けようと、様々な試みがなされた。

 アルベルトの意向と、権力欲にギラつく他の大貴族の思惑がかみ合ったのだろう。


 頻繁に聖女をもてなすための慰問パーティーが開かれた。

 贅を尽くした盛大なもてなしは、ちっとも私の心を動かさなかった。

 どのような美辞麗句も寒々しく耳を通り過ぎていく。

 下心が見え見えで、ただただ空虚なのだ。


 やたらと縁談が舞い込むようにもなった。

 婚約者をあてがい、国に繋ぎ止めようという思惑だ。

 出会ったばかりの男性に愛を囁かれて、何を信じられるというのか。

 私は曖昧な笑みを浮かべて、お茶会が終わるのを静かに待つ。



(ライトたちは何してるのかな)

 

 思い浮かべるのは追放騎士の姿。

 今日も彼らは国のために、魔獣と戦っているのだろうか?

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