9. 依頼中の語らい③

「す、素敵な話じゃないですか。

 どうしてそれで追放なんて話になったんですか?」

「身勝手な理由で騎士団の害になる行動を取ったんだ。

 騎士団長の意向に真っ向から逆らった。

 ……反感を買って嵌められたんだよ」


 騎士団長・アルベルト。

 ライトを追放した人物の名前を、ポルクは憎々しげにそう吐き出した。



「かたっくるしい騎士団なんて、もともと俺には合わなかったんだ。

 こうして傭兵になれて清々したね」


 一方のライトは、仲間の憤りをよそにあっけらかんと言う。



「君らこそ、俺についてくる必要なんてなかったんだぜ?」

「おいおい、冗談きついぜ。

 今更、ライト以外のリーダーなんて考えられないぜ」


 ライトの側にいた大男が、そうライトへの忠誠を口にする。

 こうして焚き火を囲んでいるのが、追放騎士を追いかけて結成された傭兵グループであることを私は知る。

 断片的な会話からも、彼らが堅い絆で結ばれていることが感じられた。


 私が少しだけ疎外感を覚えていたところに、



「ほら、焼けたぜ。

 せっかくだし食べていってくれ」


 ライトがそういいながら、何らかの肉を差し出してきた。

 毒々しい色をした得体の知れない肉。



「……何ですか、それ?」

「今日いっぱい倒したムカデ型の魔獣。

 こうして捌けば、なかなか旨いぜ」


「げっ、魔獣の肉ですか?」

「そんな嫌そうな顔するなよ。

 案外いけるぜ?」


 どん引きした私を見て、さもありなんとライトの仲間たちも同意。

 ライトはゲテモノ好きなのだろうか?


「結構です!」

「なんだと。せっかく焼いた俺の肉が食えないと言うのか!?」


「当たり前です。

 絶対おなか壊すやつじゃないですか!」

「慣れだ、慣れ。

 好き嫌いばっかりしてたら、いつまで経ってもムカデの肉は食えないぞ!」


 今、そのムカデ肉動きませんでした?

 ギャーと悲鳴を上げそうになるのをどうにかこらえる。



 遠慮の欠片もない返し。

 この受け答えは聖女として相応しいのだろうか――そんな枷のない自然な会話。


 不思議だった。

 ポンポンと会話が弾む。



「ライト、あんまり悪乗りしてるとミントに嫌われちゃうよ?」

「え……」


「はい、ミントちゃん。

 騎士団支給のカプセル剤。

 あんなムカデ肉より、こっちのほうが良いよね?」

「勿論です。

 ありがとうございます、ポルクさん」


 はじめは聖女様相手だから、と遠慮していた班員たちも話に加わり始める。

 いつの間にか私たちは意気投合し、笑顔で焚き火を囲んでいたのだった。


 心を許した誰かと食べるご飯は、やっぱり美味しい。

 そんな当たり前の事実を思い出す。



「アンリエッタ様、それ以上は許されませんぞ」


 夜も遅くなり、護衛がしびれをきらして注意してくるまで。

 私は騎士団員たちと束の間の会話を楽しんだのだった。

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