7. 依頼中の語らい

 聖女の役割がある私は、騎士団の任務についていくことも多かった。

 特に魔獣が多く出現する危険な地帯に行くほど、聖女の力は切り札となる。

 今回の依頼も国境付近の魔獣の討伐。


 見晴らしの良い高台での祈りを終え、私は用意されたテントへ戻ろうとしていた。

 辺りは既に薄暗く見晴らしも悪い。


(健康管理も聖女の重要な仕事。

 休めるときはしっかり休まないと)


 そんなことを考えながら歩いていた。

 だから見覚えのある少年を見つけてしまったのは本当に偶然であった。




 夕飯時なのだろう。

 騎士団員から外れてポツリと焚き火を囲む4人ほどのグループがあった。

 その中にライトの姿を見つける。


 こっそりと近づく。

 仲間としゃべるライトは楽しそうに夢を語っていた。

 自らの剣で大切な物を守り、信念を持って剣を振るうのだと。


 ライトの回りには笑顔が溢れており彼の人柄を感じさせる。


(追放騎士、ライト……)



 信念を貫く真っ直ぐさと、にも関わらず付けられた不名誉な称号。

 彼への興味は尽きない。



 すぐテントに戻って明日の準備をしなければならない。

 そう思うのに、私の足は縫いつけられたようにここを離れなかった。

 せっかく再会したのだ。

 もう一度話したい、そう思ってしまったのだ。



 さらに偶然は続く。


「君はあの時の――!」


 目ざとく私を見つけて駆け寄ってくるライト。

 どうやら救護班の一員だという私の嘘を信じたのだろう。

 私がここにいることに疑問を持つことはなかった。



「あ、私はミントです!」


 聖女であることを知られたくないという無意識の判断か。

 とっさに偽名を名乗ってしまった。



「本当に救護スタッフだったんだね。

 ドレス姿も似合ってたけど、そちらの方が自然体に見える」

「私もこの方が落ち着きます」


 国から送られた聖女の着物は、遠征には不向きだと置いてきていた。

 今の私は救護スタッフが着る真っ白な衣に身を包んでいる。



「せっかく再会したんだし。

 ちょっとだけ話していこうよ!」

「ちょ、ちょっと!?」


 彼の中でどんな判断が行われたのか。

 彼は私の手を引くと、強引に仲間の待つ場所へと連れて行った。



「ちょ、アンリエッタ様?」

「今日はもう戻ってもらって結構ですよ」


 慌てた様子の護衛に私はそう返す。

 戦場で疲れた騎士団員を癒すのも、きっと聖女の役目。

 だからこうして騎士との会話に興じるのも、また聖女の役目の一環なのだ。


(うん、強引な理屈だけどきっと間違ってはない!)


「いきなりこんなことをされては困ります」


(今日は何を話すんだろう?)


 ライトに強引に連れていかれたという体を取りながら。

 私は期待に胸をときめかせていた。

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