6. 追放騎士との出会い③

「もし、聖女様がライトの期待するような完璧な人間じゃなかったら。

 あなたはどう思いますか?」

「どう思うってのは?」


「聖女の噂なんて嘘っぱちで、どうしようもなく普通の人間だったなら。

 ……騙されたと怒りますか?」

「どうして怒るなんて話になるんだ?」


 心底不思議そうにライトは首を傾げる。


「どうしてって……」

「それで騙されたと言うのは、あまりに身勝手すぎるだろう。

 期待を押し付けたことを謝っても、怒るなんて有り得ないよ」


 当たり前のようにライトはそう答える。



「ライトは優しいんですね?」

「普通の考え方だと思うぜ?

 身勝手な期待を押し付けて怒るやつも、この国には多そうだけどな。

 国の救世主なんて祭り上げられて、聖女様も本当は苦労してると思うんだ」


 そのとおりです。

 私はライトをまじまじと見返してしまいました。



 聖女を崇める者。

 聖女の権威を狙う者。

 救国の聖女の力が望み通りでなかったとき――彼らは口を揃えてこう言うだろう。


 「こんなはずじゃなかった」と。

 役に立たないならポイッと捨てられる、そんな打算のみで繋がった関係性を想像していた。



(ああ、そんな風に考える人もいるんだ)


 そんな繋がり以外のものを諦めてしまったからこそ。

 過度な期待してしまったことを謝るというライトの答えは、ひどく印象に残ったのだった。



「そろそろ向かわないとパーティーが終わってしまう。

 パーティー会場はどこだ……?」

「ええ……!? これから向かうところだったんですか?

 そこの角を右に曲がって――」


 私の大雑把な説明をもとに、少年はパーティー会場へと向かっていった。



「また会えますか?」


 この束の間の語らいは、私にとってかけがえのないもので。

 気がついたら口に出して尋ねていた。



「不思議と君にはまた会う気がするよ。

 次は遠征で、かな?」


 ライトは無邪気な笑みを浮かべる。

 再会を約束するにはあまりに血生臭い場所。


(少なくとも嫌がられてないみたい)


 それだけで安心した。




「アンリエッタ様、なんだかうれしそうですね?」

「分かる?」


「これ以上ないほどに、ゆるんだ顔をしていらっしゃいますから」


 メイドのメアリーに言われて、私は顔を引き締める。

 聖女として情けない姿は見せられない。

 誰しもが憧れる姿を保ち続かなければならない。



 ――そう思っていた時もありました。


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