5. 追放騎士との出会い②

「今日のパーティーには、聖女様も参加しているそうだ。

 俺たちにとって、まさしく救世主だ。

 失礼がないようにしないとな」


 突然出てきた聖女の話題。

 ごほっ、とむせてしまう。


「そんなに凄いんですか、聖女様って?」

「凄いなんてもんじゃないさ!

 聖女様のおかげでこの国は救われたんだ」



 私は自分に出来ることをしただけ。

 "聖女様"に対するその評価は、私にはあまりに重たすぎる。


「国を救ったなんて。

 救国の聖女なんて呼ばれていますが、少し大げさではありませんか?」

「大げさなもんか!

 国を救うような偉業を成し遂げながら、見返りは何も求めない。

 まさに清廉潔白、清らかな心の持ち主さ。

 その美貌と儚い笑顔に心を撃ち抜かれた騎士は数知れず。

 俗な人間には触ることすら許されない、神が遣わした女神のように神々しいお方なんだ!」


 キラキラした顔で憧れの聖女様について語るライト。

 誰のことだそれは、と思わず乾いた笑みが出てしまう。



「聖女様の祈りのおかげで、騎士団員の犠牲者は格段に減ったんだ。

 天に祈りを捧げる姿は、何度見ても勇気付けられた。

 手を合わせると光がフワーっと昇って、幻想的なんだ」

「はあ……随分と凄いんですね」



 まるで自分のことではないみたい。

 他人事のように話を聞いていると、


「その気のない返事は何だよ。

 この国で魔獣に怯えず平和に暮らせてるのはに、すべて聖女様のおかげだっていうのに。

 君もしっかり感謝しろよ?」


 大真面目な顔で説教されてしまった。

 それだけ熱く語っておいて、当の本人が目の前にいるのに気づかないのはどうなんだ?


「聖女様と実際に顔を合わせたことはないのですか?」

「そんな、恐れ多いことができるか!

 護衛も付いてるし、遠くから眺めてるだけでも幸せなんだ」



 どこまでいっても聖女は崇拝の対象なのだろう。

 目の前の少年も、私が聖女だと分かればガラリと態度を変えるのだろうか?


(それは嫌だな)


 せっかく気兼ねなくしゃべれる間柄になったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る