4. 追放騎士との出会い
疲れを理由に、私は早々にパーティ会場を抜け出した。
「アンリエッタ様はとても魅力的です。
いつか素敵な殿方が現れますよ」
私の表情から何があったのかを悟り、メアリーがそう慰める。
「良いんですよ、無理に慰めなくても。
国を支える力になれるなら本望です。
今の生活には本当に満足してますから」
そう自分に言い聞かせる。
手に入らぬものを望むより、今を最大限に楽しむ努力をするべきだ。
そんなことを考えながら自室に帰る途中。
角を曲がったところで、私は突っ込んでくる何者かにぶつかり吹っ飛ばされた。
ついでに相手も盛大に吹き飛ばされる。
大事故であった。
「い、いたたた……。
君! そんなにところでボサっとして、危ないじゃないか!」
「んな!? アンリエッタ様になんと失礼な」
怒るメアリーをなだめて、私は相手に視線を送る。
エメラルドグリーンの瞳に、小麦色の髪の毛。
まだ幼さの残るあどけない顔立ちをした少年が、お尻を抑えながら立ち上がる。
それからムスッと不満そうな顔を私に向けてきた。
「すいません、私の不注意でした」
「気を付けろよ?」
口では文句を言いながらも、少年は私に手を伸ばす。
年齢は私より少しだけ下に見える。
特徴的なのは剣ダコのできた大きな手であろうか。
「騎士ですか?」
「元、だけどね」
ますますムスッとした表情を浮かべる少年。
騎士、と呼ばれるのが嫌なのだろうか?
「お名前を聞いてもよろしいですか?」
「ライトだ。
追放騎士ライト、って言ったら有名だろう?」
自嘲するように少年は呟いた。
私は首をかしげる。
「聞いたことがない名前ですね」
「こんなパーティーに参加していて、俺の名前を知らないなんてな。
騎士団を追放された騎士なんて、社交界じゃ絶好のネタだと思ってたよ」
貴族は人の醜聞が大好きな生き物だ。
落ちぶれた者を嘲笑い、面白おかしく話す人も多いと聞く。
「私はただの平民ですので。
社交界の事情には疎いんです」
「平民がどうしてこんなパーティーに招待されたんだ?」
私が聖女であることに気がついていないのだろう。
「遠征には救護スタッフとして参加していました。
今日は労いで参加を許されたんです」
出来れば知られたくない。
私は無意識に誤魔化すような返事をしてしまう。
「ただの救護スタッフがねえ。
そのドレスなんか、なかなか着慣れてるように見えるぜ?」
「そこにいるメアリーのお陰です。
どこから見ても令嬢みたいでしょ?」
「……まあ、喋ると台無しだけどな!」
余計なお世話だ。
ムっとした顔をしてみせると、ライトはおかしそうに笑った。
思ったことが素直に顔に出る彼との会話は、とても新鮮だった。
(ただの世間話なのに。
聖女としての義務も打算もない。
何てこともない会話が、これほど楽しいなんて)
彼の視界には救国の聖女ではなく、たしかに私という存在が映っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます