2. 救国の聖女と冷たい食事

 私が聖女になり1年の月日が流れた。


 国からの期待に応え、私は聖女として精力的に活動した。

 魔獣討伐の依頼には率先的に参加し、豊穣の祈りも欠かさなかった。

 生まれてからの16年の日々でもっとも忙しく、充実した日々であった。


 今や聖女はこの国の宝である。



「アンリエッタ様、本当によろしいのですか?」

「メアリー、ありがとう。

 でも丁重にお断りしておいて?」


「もう、本当にアンリエッタ様には欲がないんですから……」


 ここ1年で聖女の果たした役割は大きかった。

 否、大きすぎた。


 聖女を国に繋ぎ止めておくため。

 国の財を使って様々な贈り物が届けられた。


 豪華なドレス。

 ふかふかのベッドに眩い宝石。

 国の有力デザイナーが手がけたアクセサリー。

 望めば何でも与えられた。



「どんな綺麗な宝石も、高名な方が作った装飾品も。

 価値が分からない私が持っていても仕方ないわ」


 元・孤児の私には過ぎた贅沢だ。

 望めば何でも与えられる環境にいながら、私は何も求めなかった。 

 だって本当に欲しいものは、決して手には入らないと知っているから。




 早々に孤児院に預けられた私には、家族との記憶がなかった。

 院長さんは良い人だったし、とても大切にされたと思う。


 それでも本物の家族というものに憧れた。

 人の暖かさが欲しかった。

 ぬくもりが居場所が欲しかった。

 無条件な愛が欲しかった。


 もちろん今の生活に不満はない。

 これ以上を望んだら罰があたってしまう。



「ねえ、メアリー。今日の晩御飯は、一緒に食べましょうよ?」

「私はただのメイドにございます。

 聖女様と並んで食事をするなど、到底許されることではありません」


 恭しく一礼をするメイドのメアリー。


 一流の料理人により作られた豪勢な食事。

 料理人が趣向を凝らしたそれも、何人もが毒味を終える頃にはすっかり冷めていた。

 私は広々としたテーブルにひとり座り、冷え切った食事をもそもそと口に運ぶ。

 メアリーは、直立不動で待機していた。



(誰かと一緒に食べた方がおいしいのに)


 この国を守護する聖女という肩書きはあまりに重たい。

 聖女は崇めるものなのだ。

 誰もが恭しく、壊れ物を扱うよう丁重に触るのだ。

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