救国の聖女は愛だけを望む
アトハ
1. 救国の聖女は祈りを捧げる
この世界には魔獣と呼ばれる恐ろしい存在がいた。
人に害をなす魔獣を討伐するため、国から派遣された騎士団が遠征に出向いていた。
私も医療チームの救護スタッフとして、遠征に参加していた。
余裕だと言われていた討伐任務。
進行も順調ですぐにでも城に帰れるだろうとの見方が大半であった。
しかし魔獣の数は当初の想定を大きく超えており、騎士団員は疲弊しきっていた。
「アンリエッタさん、怪我をした騎士がもうじきこちらに運ばれてきます。
治癒魔法の準備をお願いします」
救護スタッフのテントに運ばれてくる騎士は多く、目が回るような忙しさであった。
もはや新たな患者を受け入れる余裕はない。
それでも怪我をした騎士をひとりでも多く癒すのが、救護スタッフの役割である。
私は気合を入れ直す。
「何時になったら、この戦いは終わるのだろう」
「俺はまだ死にたくねえ。
街に残してきた家族だっているんだ」
簡易テントに集まった怪我人の表情は暗い。
戦う力のない私に出来ることは、気休めレベルの治癒魔法をかけて励ますことのみ。
多くの救護スタッフが歯がゆく思っていたが、それが治癒魔法の限界。
だからこそ祈らずにはいられなかった。
(こんな戦いが一刻も早く終わりますように)
(この遠征に参加した全員が、無事に帰れますように)
どうしようもない現実を前に、神に縋るなど情けない行為だろう。
だとしても国のために命懸けで戦い、日々疲弊していく騎士団員のため。
こうして祈ることを止められなかったのだ。
そして奇跡は起きた。
魔獣に味方していた黒い霧が晴れ、天から太陽が顔を覗かせる。
両手を組んで天に祈れば、光が差し込み魔獣の群れを一掃した。
それは儚くも幻想的な光景であった。
この世界には神様がいるのかもしれない。
目の前の非現実的な光景を前にして、私は呆然とそう思う。
「――奇跡だ」
誰かがポツリとそうつぶやいた。
「聖女様だ」
「神が遣わした救国の聖女だ!」
「なんと神々しい!」
そんな言葉が騎士団員の中に浸透していった。
その奇跡は魔獣討伐の依頼をあっけなく終わりに導いた。
聖女とは戦場に奇跡をもたらす者。
魔獣討伐の任を果たした騎士団は、意気揚々と王城に凱旋した。
そして"奇跡"の噂は瞬く間に広がり、
――私はこの国の聖女となった。
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