第23話


「早くしてください。」


アイルに急かされる。


なぜ……こんなことになっているのだろう。


今、アイルは椅子に座っていて、俺はその背後に立っていた。


そんな俺の手には、櫛と白色の絵の具のようなものが入った容器が握られていた。


……そう俺は今から、アイルの美しい金色の髪を染める。


アイラは有名人で、アイルはそのアイラと同じ顔。


その特徴的な金髪を染めてしまえば、バレるリスクを減らせるというのが理由だ。


アイルは服が汚れ無いように、布のようなものを羽織っている。


しかして…他人はおろか、自分の髪すら染めたことがない。大丈夫だろうか。


「よし。」


考えてても仕方ない


意を決して、容器の中身をアイルの頭にのせて、櫛を使い、全体に伸ばしていく。


少しずつ足しながら伸ばしていくだけだ。


なんだ、簡単じゃないか。


調子にのって、伸ばすペースを早めていく。


「きゃっ……っ」


アイルが急に可愛らしい声を上げた。


俺が誤って、塗料をアイルのおでこにつけてしまったのが理由だ。


「もー、何をやっているんですか」


アイルが体を捻らせ、こちらを見上げてくる。


そう、見上げてくる。


彼女は椅子に座っていて、俺は立っているのだからその位置関係は当たり前。


そして、見上げるのだから、アイルが……その……


上目遣いになるのも当たり前だった。


「ご、ごめん気をつけるよ」


やばい、ありえん可愛い。


「全く…」


そう言ってアイルは顔を正面に戻す。


いやー、助かり申した。


もう少しの時間、あの上目遣いを見ていたら、俺のユニコーンがデストロイモードになってしまうところでした。


今度は調子に乗らず、注意をしながら髪を染めていく。


……そういえば、生え際まで綺麗に染めないといけないな。


そう思って、アイルの美しい髪を櫛を持っていない方の手で持ち上げると……


「!?」


目に入ってしまう。今まで隠されていた兵器が。


その兵器の名前は『うなじ』


健全な男子を仕留めるだけの破壊力がそれにはなった。


いやいやいやいやまてまてまて。


俺はアイルと一緒に寝たんだぞ?何もしてないけど。


それが今更うなじなんかで……


そう思ってもう一度アイルのうなじをみる。


やばい、ありえん可愛い。本日二回目。


いや、無理っすねこれ。抗えない。目が離せない。


これを見て、心がときめかない男がいますか?いや、いない。反語。


「どうかしましたか?」


アイルが正面を向いたまま声をかけてくる。


うなじに目を奪われ、手を止めていたからだ。


「だ、大丈夫!ちゃんとやれるから!俺は大丈夫だから!!!」


テンパっていたせいで、大きな声でよくわからないことを言ってしまった。


「……?」


アイルも不思議そうにしている。


いかんいかん。とっとと終わらせなければ。


このままでは俺のユニコーンがデストロイモードになった挙句、ビームマグナムを連射してしまいかねない。


それから俺は、なるべく綺麗なうなじを見ないように、作業を進めた。

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