第22話

あのあと、アイルと様々なお店を巡った。アイルが何を見て、何を買っているのかさっぱりわからない。


アイルは目立たないようにローブのフードを目深に被っていた。


一方の俺は…素顔丸出しだった。


城の中でしか生活していなかったから、俺の顔を知っている人はあまりいないだろう。


だが…この黒髪のせいで日本人だということはバレるのではないか?


とも思ったが…そんなことは無かった。


街行く人を見てみると、赤、青、緑、紫などなど、様々な髪の色をした人がいるが…中には黒髪もいた。


なるほど、髪の色だけで日本人だとバレる事はなさそうだ。


これなら堂々としていたほうが逆に怪しく無いだろう。


「………君。ちょっといいかな?」


そんな矢先、いきなり声をかけられた。


声をかけ来たのは、この街に似合わず、金持ちそうな男性。


歳の頃は20の半ばくらいだろうか。


皺の無いキチッとした服を着ている。


……正体がバレたのか?


アイルも同じことを考えたのだろう。一歩こちらによってくる。何かあればすぐに動ける距離だ。


だが…正体がバレたと言うわけではなかった。


「君、素敵な物をつけているね」


「これ……ですか?」


男性の視線の先には…アイラのペンダントがあった。


「おっと……自己紹介もまだでしたね。私の名前はアーデル。以後、よろしく。」


そう言うと、アーデルは丁寧にお辞儀をした。


合わせてこちらもお辞儀をする。


「えっと、俺の名前は、さ……」


「私達に何の用ですか?」


こちらも名乗ろうとしたが……割ってきたアイルに止められる。


迂闊に名前を言うなということだろう。アイルの声音には、まだ敵意の色が見える。


「デートの邪魔をして悪かったね。………単刀直入に言おう。そのペンダント、譲ってくれないか?1000万でどうだろう。」


1000万…?ってどれぐらいの価値?


隣のアイルが、そのフードの下で驚いているのがわかる。つまり大金ということだろうか。


確かにこれから先お金は必要になってくるだろう。今日の買い物はすべてアイルがお金を払っていたが、それもいつまで持つかわからない。


というか女の子のヒモというのも良くないだろう。


だが……


「すまないんだけどさ、無理。」


「倍出すと言っても?」


「お金じゃないんだ。これだけは手放せない」


そう、お金じゃない。


クサいことをいうなら、お金で買えないものが詰まっているから。


アーデルはしばらく考えたあと、「わかった」と口を開いた。


「無理に……というわけではなかったんだ。でもまあ、気が向いたらいつでも声をかけてくれ、僕はこの街にいると思うから」


そういって、アーデルは手を振りながら街の中に消えていった。


その背中が見えなくなってから………


「売らなくて、良かったんですか?」


口を開いたのはアイルだった。


「お姉様には、売ってもいいと言われたんじゃありませんか?」


たしかにそうだ。御者に見せたあとは売っても良いと言われた覚えがある。


「確かに良いって言われたけどさ…温もりは手放せ無いだろう?」


「クサいセリフですね」


そう言ったアイルの顔は……どこか嬉しそうに見えた。


「あはは〜……。まあ、とりあえず大事に持っといて、アイラにあったときにちゃんと返すよ。」


アイラに会うのはいつになるのだろうか。その時が待ち遠しい。


「お金の心配はしなくて大丈夫です。こう見えても結構持ってますから」


そういえばお城で使用人をしていたんだっけ。


無駄に使うようにも見えないし。結構貯めてそう。


まぁ、これでしばらくはアイルの財布に寄生する生活になりそうだ。


なんと……だらしない男なのだろう。

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