第18話 

アイルと二人で馬車に揺られること……どれくらいだろう。


夜明けを待たず、目的地についた。


御者にお礼をいって、アイルと二人っきりになる。


ここは………どこだろうか。


そういえばアイルが、目的地を貧困街に変えてほしいと言っていた気がする。


「ここが、貧困街ってところなのか?」


「そうです。」


アイルは続ける。


「ここに、私とお姉様の友人が居ます。どこに行くにしても準備は必要です。何日か泊めてもらって、その間に準備をしましょう。」


アイルとアイラの友人か……どんな人物だろう。少し興味がある。


……ふと、周りを見回して見る。


貧困街というだけあって、月明かりに照らされた建物はお世辞にも立派とは言えなかった。


あたりを見回す俺を見て、アイルが口を開く。


「ここに住んでいる人の多くは、魔法が使えません」


この世界における魔法の才能は、運ゲー要素が強いらしい。詳しくはわからないが、努力では超えられない壁というものもあるのだろう。


俺が勇者になれなかったように。


「魔法が使えればそれなりの仕事に付けて、裕福な生活ができるからです。でも、ここの人たちはみんな懸命に生きていて………私はここが嫌いではありません」


自分が好きな場所に、悪い印象を持たれるのが嫌だったのだろうか、アイルが珍しく饒舌だ。


「これから会うアイル達の友人も、素敵な人なのか?」


「素敵……とは言えないかもしれません」


ありゃ、友人なのに素敵ではないのか。


「それでは行きましょう。こちらです。」


そう言って、アイルは歩き始めた。


✦✦✦✦✦✦


しばらく歩いたあと、ある家の前でアイルは足を止めた。


「ここです。」


そう言うと、アイルは躊躇いなくドアをノックした。


正確にはわからないが、もう遅い時間だろう。アイル達の友人とやらはまだ起きているのだろうか。


「ふぁ〜い、どちら様〜?」


そんな俺の思考は杞憂に終わり、中から眠たげな女性が出てくる。


服はだらしなく着崩れていて、髪はボサボサだ。


寝ようとしていたことを加味しても、だらしない。


アイルとは正反対の性格のように見えた。


「お久しぶりです。ナナリー」


アイルが友人にするとは思えないほど丁寧に挨拶をする。


すると、だらしなさそうな女……ナナリーはそれまで眠たそうにしていた瞼を、みるみるうちに開いていく。


「ちょっ……え!?アイル!?」


ナナリーは、「ひっさしぶりじゃーん!元気してた!?」とアイルの方をポンポンと叩く


「ちょ…普通に痛いのでやめてください」


アイルは迷惑そうにナナリーの手を払う。


そして…いきなり本題に入った。


「事情は聞かずに少しの間泊めて頂けませんか?」


直球だった。野球選手もびっくりなくらいのストレート。


事情を聞かずに泊めてほしいって、怪しさ満点すぎるだろ。


そんな都合よく泊めてくれるはずが……


「いいよ〜」


笑顔でナナリーは答えた。


いいのかよ……


それほどまでに仲がいいのか、それともナナリーがアホなだけなのか


「それで、そっちの子は?彼氏?」


ナナリーがこちらを向いて訪ねてくる。


「違います」


即答だった。ほんとに回答までが早かった。


普通なら、「ち、違いますっ!」とか、頬を染めながら言うものじゃないのか?


これがラブコメなら怒られてるぞ?


「ありゃ〜、アイルに春はまだ来ないかぁ………。まあまあ、とりあえず入ってよ」


ナナリーがドアを開け、俺とアイルを招き入れる。


その身なりとは逆に、家の中はスッキリとしていた。片付いているというよりは家具が少ない印象。


「来てそうそう悪いんだけどさ、あたしもう寝るわ。奥の部屋にベッドがあるから、二人で使って」


そう言って、ナナリーは椅子に腰掛け、そのままテーブルに突っ伏した。


「いやいや、家主が椅子で寝るっていうのは……」


ナナリーに遠慮していると……


「ナナリーならどこでも寝れます。大丈夫です」


アイルがそう言ってきた。


それを聞いて、突っ伏していたナナリーが顔を上げて


「アイルちゃんのいうとーり!よく言うでしょう?ほんとに優れた人は道具を選ばない。キリッ」


弘法筆を選ばず。と言うやつだ。


しかし……最後のキリッ!まで口で言っちゃてい


なぜだろう。気を使うのも馬鹿らしくなってきた。


「そっか、そこまで言うならお言葉に甘えるよ、おやすみ。」


アイルも、「おやすみなさい。」とお辞儀をする。


二人で奥の部屋へと進む。


どうやらここが寝室のようで、大きなベッドが一つと、タンスやらクローゼットやらが置いてあった。


「って…あれ?」


ベッドは一つ。俺らは二人。


「あれれ?」


たしかナナリーはベッドは二人で使ってと言っていたような気がする。


彼女はここで独り暮らしているようだったし、ベッドが一つなのは当たり前。


「これ、二人で一緒に寝るの?」


アイルにそう問いかけると、アイルはコクリと首肯する。


何故、アイルが迷い無く頷いたのか分からないが…それは流石にまずいでしょう。内なる僕が目覚めてしまいかねない。


よし…ここは……


「おっけい、ナナリーと変わってくる。俺が椅子で寝るから、二人はベッドで寝てくれ」


……これが正解だろう。やはり、ハレンチなのはいけませんっ!


そう言って、部屋から出ようとしたところで………アイルに腕を掴まれた。


「アイルさん……?」


なぜ止める。


アイルさんだって男と二人は嫌じゃないのか。


「ナナリーはとても、いびきがうるさいんです。…あれと寝るのはストレスです」


アイルが心底嫌そうな顔をしながら言ってきた。家に泊めて貰うのになんてひどいことを言うんだ。


しかも、ナチュラルにナナリーを『あれ』って言ってるし。


とっても仲がいいんですね。うん、そういうことにしましょう。


アイルは「それに……」と続ける。


「私ならサクラくんと寝てもなんの問題もありません。」


「……その心は」


「私は顔だけなら美少女です。お姉様と同じ顔なので。ですが、中身が私だと、サクラくんも変な事をしないでしょう?……もし変なことしてきても、私のほうが強いですから」


「あっ、はい。」


アイルの自信満々な声につられて、俺は頷いた。

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