第14話

暗闇から出てきたのは、日本人だった。


見間違えるわけがない。自分の国の人間の顔だ。一目見ればわかる。


しかも……この世界にいる日本人と言うことは…俺と同じく、アイラの力によって召喚されたのだろう。


しかし…同じなのはこの世界に来た経緯だけ。


こいつは俺みたいな平凡な人間とは違う、非凡なる者の筈だ。


「君も日本の人だよね?もしかして、新しい勇者?」


当然のように向こうも気がついた。


「もう一度聞くけど…こんなところで何をしているの?」


……何というか、こいつ嫌いだ。


どこからか漂うオーラというか、なんというか。いい子ちゃんの匂いがする。


ここで何をしているのか。この質問に対する答えは慎重にならなければいけない。文字通り命が賭かっている。


嘘をつくときのポイント。前に何処かで聞いたことがある。


曰く、嘘の中に少しだけ真実を混ぜてやればいい。


「怪しい人影が外に出ていくのを見たんだ。だから…そいつを追って、今から城を出ようとしていた。城の兵士が眠らされているのは見たか?」


城の外へと向かっている。兵士が眠らされている。これはホント。


怪しい人影をみた。これだけがウソ。


「あっ、因みに言い忘れてた。僕には……嘘を見破る加護が宿っている。」


「ち……っ!」


思わず舌打ちをもらし、身構える。


嘘を見破る加護。それをもし本当は持っていなかったとしても、今の反応で先の発言が嘘だとバレてしまっただろう。


……失敗したかもしれない。


どうにかして馬車まで向かわなければいけない。馬車に乗ってさえしまえば追いかけては来ないだろう。


しかし…城の出口は相手の向こう側………


できるのか?平凡だった俺に、非凡なるあいつをやり過ごす事が


できるのか?……じゃない。やるんだ。やるんだよ。


アイラが救ってくれたこの命。何をしてでも生き残る。


捕まれば確実な死。それだけは駄目なんだ。


なんでもいい。砂を投げて目を使えなくするとか、油断させて隙をつくとか。


ずるくても、卑怯でも。


誇れなくても、後ろめたさが残っても。


──生きるんだ──


「ごめんね、みんなが起きるまで、大人しくしててもらうよ。」


「………ッ!」


その時。驚くべき事が起きた。


あいつの声が、正面に立っていたはずのあいつの声が。


……俺の後ろから、聞こえてきた。



先程まで目の前にいた青年が、今は後ろにいる。


たしかに、打開策を考えていたが、目を放した覚えはない。


身体強化を使い、超スピードで後ろに回った?


いくら何でも、見られている状態から気が付かれずにそんなことが出来るのか?


様々な疑問が頭に浮かぶ。


「くそっ!」


って、そんなこと考えている場合じゃない。


急いで振り向き、距離を取ろうとする。


が、遅い。


左腕をガッチリと掴まれてしまった。


振りほどこうとするが、外れない。なんつー力だ。


って、あれ?こいつ力入れてる?


青年の腕と顔を見てみる。


その表情は……特に力を入れている様子はない。


服の上からであるし、周りも暗いため、自信はないが、その腕も、力を入れているようには見えない。


だが……びくともしない。


………これが、俺との差かよ………


「とりあえず、王のもとまで……………ん?」


そこで青年が何かに気がつく。


その目線の先には………アイラに貰ったペンダントがあった。


「勇者になれなかった者が……アイルとリープを退けて一人でここまで来るとは考えにくい………か」


なんだ、俺が勇者になれなかった出来損ないだって知っていたのか。


なら、最初の問答に意味なんてないではないか。


それにしても、リープとアイルの評価は高めらしい。ちょっと嬉しい。


そんなことを考えていると……青年が俺の腕をはなした。


「いいよ、今回は見逃してあげる」


青年の顔は……どこか嬉しそうだった。


「どういうつもりだ。」


この青年に、俺を見逃すメリットはないはず。


なぜそうするのか…わけがわからなかった。


「見てみたくなったんだ。君を逃した少女と…世界から無価値の烙印を押された君の物語をね」


「………そりゃどうも。」


やっぱり俺は……こいつが嫌いだ。理由なんか特にない。しかしてムカつく。


「さあ、行くなら早くしたほうがいい。」


そう言って、青年は微笑んでくる。


軽く会釈をして、その場から走り出そうとすると……


「そうだ、自己紹介もまだだったね。僕は四番目の勇者……フィーア。君は?」


こいつは俺のことを…『勇者になれなかった者』と呼んだ。


つまり…知っているんだ。この世界と…アイラの罪を。


それなのに、自分の名前をフィーアと言った。いけ好かない。


だから俺は答える。


「俺は日本人の………双葉桜だ」


そう言って、俺は再び走り出した。


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