第10話
加護とは、世界から与えられる祝福である。
この世界に産まれたときに与えられ、何かのきっかけで発現する。
加護は2つとして同じ物はなく、誰が手にするかも完全にランダム。運ゲーだ。
だが、1つだけ。そうではない加護がある。
召喚の加護
異世界より召喚された者はなぜか、強力な加護や、ずば抜けた魔法適性を持っている確率が高い。
異世界から召喚された非凡なる者を、人々は勇者と呼んだ。
そして召喚の加護だけは…親から子に受け継がれる。
コール家に産まれた長男、長女は必ず召喚の加護を持って生まれるのだ。
───アイラ・コール。それが現在、召喚の加護を受け継いだ少女の名前。
その加護以外はどこにでもいる普通の少女。強いてあげるから他人より少しだけ魔法が得意といったところだろうか。
しかし、その唯一特別である加護も、大した意味を持たなかった。
世界が勇者を必要としないからだ。
彼女の双子の妹である……アイル。
彼女も特殊な加護を持っていたが…やはりそれ以外は普通の少女だった。
怖いものはお化け。好きなものはお母さんのご飯。そして…姉が大好きな女の子。
姉と違い、魔法は全く使えなかったが、その分、身体強化は得意だった。
仲のいい双子。誰が見てもそう答えただろう。
朝は一緒に起きて、二人で暗くなるまで遊んで。
たまには喧嘩なんかもして、それでも夜は一緒に眠って。
そんな…普通の生活。
普通だが…キラキラした宝石の様な生活。
そんな生活がずっと続くと思っていた。そう、過去形。
二人は変わってしまった。
──いや違う。
変わったのは二人じゃない。変わったのは……世界の方だ
三年ほど前に突然。この世界は滅びへと向かい、足を運び始めた。
いつ滅びるかはわからない。もしかしたら今生まれた赤ん坊がおじいちゃんになるまで世界は滅びないかもしれない。
だが、確実に滅びに向かっているのだ。
世界の気温はすこしずつ下がり始め、各地の魔物は凶暴化して、被害は目に見えて増えた。
その変化は、人々の不安を駆り立てる。
そして…誰かが言った。
魔女のせいだ。
悪い魔女が悪さをしてるんだ!と。
だからこそ人々は願った。願ってしまった。
凶暴化した魔物を、魔女を倒し。
世界を平和にしてくれる
勇者の存在を
それからは簡単なお話。誰にでもわかるお話。
勇者を呼ぶことができるアイラはこれまでの様な自由奔放な生活を送ることが出来ず。お城で生活をすることになった。
アイルと別れる事を強く拒んだアイラの要望によって、アイルもそこで生活することになったのだが……
片や召喚士。方やその妹と言うだけの、普通の少女。
身分が違いすぎた。
アイルは使用人として働きながら生活することになる。
もう、お姉ちゃんとは呼べない。
……周りの人が怒るのだ。
もう、一緒に眠る事もできない。
一緒にご飯を食べれるのだって、アイラがわがままを言ったからだ。これ以上は望めない。
呼ぶときはお姉様。話すときは敬語。
「二人でいるときは──ずっと笑顔でいてね」
そんな、母の言葉が聞こえる。
今よりももっと幼い頃の。世界が平和だった頃の約束。
(お母さん、ごめんね)
姉は世界を救える人間なんだ。特別な人間なんだ。
………私とは、違うんだ。
そしてアイルは
笑わなくなった
✦✦✦✦✦✦✦✦
「サクラ、大丈夫?無理はしないでね」
リープの襲撃があってから、アイラは優しい。
いや、もともと優しい子でした。
「大丈夫、アイラのおかげで今はなんともないよ」
魔法とは偉大なもので、リープに貫かれた肩はもう痛く無かった。
あぁ、アイラ様ありがとう。神様仏様アイラ様々。
しばらく走っていると自分でもわかる場所に出る。
そう…ここは。
十字架を見つけた場所だ
リープの言うとおりなら、名前も刻まれておらず、骨も埋めていないという。
そんなものに一体どれほどの意味があるかは……わからない。
だが…それでもアイラはお墓を立てた。
名前も知らない者たちを弔った。
自分のせいだと攻めただろう。自分の力を呪ったことだってあるかもしれない。
世界の命と、目の前に確かにある命。その2つに押しつぶされながら、心優しいアイラは何を思っていたのだろう。
それを知る術はない。
ふと、アイラの横顔をみる。
「どうしたの?」
それに気がついたアイラは、笑顔を見せてくれる。
ここは…この場所は……
アイラの罪が眠る場所なのに。
それでも、俺を不安にさせまいと笑ってくれる。
守りたいこの笑顔。
だが……何かが引っかかっている。
本当に何なのかはわからないが、喉に刺さった小骨のように、気になってしまう。
なぜ。
なぜリープは襲ってきた
俺を殺すのが世界のためだとか、そういうことじゃない。理由の話ではなく…、
なぜ襲ってこれた?
アイラとの会話を思い出す。
あの時。俺の部屋を訪ねてきた時。
アイラはなんて言っていた?
『兵士やアイルたちは眠らせた』
そうだ。確かにそう言っていた。
眠ったでは無く、眠らせた。
アイル達。この『達』のなかには当然リープも入っているだろう。
なら、なぜリープは眠っておらず、襲ってこれたのか?
そもそもどうやって眠らせたのだろうか。
相手の眠りを誘うような魔法がある?
この世界に疎く、魔法も全く知らない自分では、それはわからない。
もしも…もしもだ。
もっと、原始的な方法だったら?
例えば…
食事に睡眠薬を混ぜるとか
「……っ!」
「サクラ?どうしたの?」
その思考に至った時、俺は足を止めた。
「こんな時間に男女で出かけるとは、感心しませんね」
足を止めたちょうどその時。狙った様なタイミングで声をかけられる。
その声の主を確かめるまでもない。
リープともう一人。
食事に手を付けなかった者がいる。
アイラの双子の妹。
姉想いの……優しい妹。
二人目の襲撃者は……アイルだった。
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