第5話
本文
「女の子に告白されたのが嬉しすぎて階段からおちたぁ!?」
アイラはお腹を抱えて笑っている。
そりゃあ、爆笑ものの話だとは思いますけど、本人の前でそこまで笑わないでください。恥ずかしいです。
「う、うるさい!初めてだったんだよ!告白なんてされるの…」
人生で初めて告白されたらうっはうはになってしまうと言うものだ。仕方ない。僕悪くないもん。
「いやー、ごめんごめん。あ、いてて。お腹痛くなっちゃった。」
アイラは笑いすぎたせいで、目の端に涙が溜まっていた。それをぬぐってから
「ねぇ、元の世界に帰りたい?」
「………っ」
今までとは打って変わっての真剣な表情に、思わず詰まってしまう。
「私が召喚なんてしなかったらさ…今頃君は、その人と幸せになってたのかな…」
いつも元気なアイラには珍しく、不安そうな、悲しそうな声。
…ここで嘘を付くのは簡単だ。笑顔で、そんなこと無いよ。アイラ達と出会えて良かったと言ってしまえばいい。
だが…
「ちょっとだけ、かな。帰りたいとまでは思わなかったけど。ほんのちょっとだけ、何でここに呼ばれたんだろうとは思った」
この少女に、この瞳に、嘘は付きたくなかった。
「この世界に、アイラに。俺は勇者として、必要とされて呼ばれたんだって、喜んでさ。でも実際はなんの才能もなくて、勇者になんて…なれるのかなってさ」
これが今の自分の本心。必要とされているかもという期待に溢れた異世界生活一日目。だが今、心を満たしているのはそんな期待じゃなく…不安だ。
「ここでの生活は俺が勇者ゼクスだから与えられてるもでさ。俺がこのままなんの才能もなく、勇者になれなかったらさ…この生活も、アイルも、リープも、アイラも。そして……俺自身も無くなってしまうんだ」
この世界での俺は勇者ゼクス。だから呼ばれた。だから価値がある。だから……みんなが見てくれる。
もし…゛ゼクス゛じゃなくなったら?
ただの゛双葉桜゛にもどったら?
何が残るのだろうか。
見限られてしまう。呆れられてしまう。勇者になれないなら必要ないと…相手にされなくなってしまう……。それがたまらなく──怖かった。
「大丈夫だよ」
「え?」
隣を見るとアイラが優しく微笑んでいた。
「勇者になんて…なれなくてもいい。魔法なんて使えなくても…なんの加護も無くても。君は君だよ、君なんだ。だから教えて欲しいな…勇者ゼクスじゃない。君の…本当の名前を。」
「……!」
それは望んでいた言葉だったのだろう。心の中にするりと入ってくる。
この人は…勇者じゃなくても良いと言っている。俺は俺のままでいいと。なんの才能も無くても。世界を救えなくても。
……それでもいいと。
俺は自分の名前があまり好きでは無かった。女の子みたいな名前。病院の受付などで名前を呼ばれるときも必ず、「ちゃん」を付けられる。そんな名前が。
「双葉桜ふたばさくら…」
「フタバ・サクラ……サクラか、いい名前だね!」
親に名前を貰って17年。はじめて、この名前が好きになれた気がした
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