第2話

それから金髪ショートカットの女性…名前はアイラと言うらしい。アイラからこの世界のことを色々と聞いた。


曰く、この世界…ミズガルズは魔女という存在のせいで、このままでは確実に滅んでしまう。その魔女を打倒するためにアイラが異世界から勇者を召喚しているというのど。


少々簡略化しすぎだと思うが、まあだいたいこんな感じ。そもそも異世界召喚ものなんて、チート能力、倒すべき敵、ハーレム。この3つが揃っていれば他は大してして重要ではない。


一体俺にはどんな能力があるのだろうか。平凡な高校生だった俺には知識チートは望めないし、あるならやはり時間停止などの強力な能力……。  


「ここだよ。ここが第六勇者ゼクスの部屋」


この『ゼクス』というのは俺のことだ。この世界には俺より先に召喚された勇者が5人いて、俺は6番目だからゼクス。


自分の部屋に入ると中にはすでに二人の女性がいた。どちらもメイド服を着ている。


片方は表情が豊かそうな八重歯が光る女性だ。しかし何よりも目を引くのはその頭。明らかにネコ耳がついていた。さすがは異世界。この程度は序の口なのだろう。


もう一人はネコ耳メイドとは打って変わって、キリッとした表情の女性だ。セミロングくらいの金髪に美しい碧眼…アイラと全く同じ色。顔もうり二つなので姉妹か…否、双子だろうか。


「始めましてゼクス様ぁ♥私の名前はリープ・リッヒといいますのニャ。これからよろしくなのニャ!」


ネコ耳メイドの自己紹介。なんと語尾にニャーまでつけるらしい。なんと本格的なことだろうか……本格的というか、きっと本物なのだろう。


「ニャ?ニャニャニャ!?ひと目見ただけでわかる膨大な魔力量…さすがは勇者様なのニャ」


リープがこちらをのぞき込んでくる。その仕草がとてもかわいらしい。


……俺には莫大な魔力があるのか。というより異世界召喚で強くない主人公なんていないだろうけども。


「私の名前はアイルと申します。見ての通り召喚士であるお姉様とは双子の姉妹です。以後お見知りおきを」


もう一人のメイドも自己紹介してくる。やはり双子だったようだ。


「それでは失礼いたします」


アイルがぺこりとお辞儀をして、早々に部屋から出ていく。なんというか薄情なメイドさんだ。 


「もー、アイルったらゼクス様に失礼なのニャ」


「あははー…悪い子じゃないんだけどねー」


たしかに少々無愛想ではあったが、別段気に止めるようなことでもないだろう。


「この部屋は好きに使っていいの?」


「もちろんですのニャ。何か困り事があったらこの、リープちゃんを呼んで下さい、すぐに駆けつけますのニャ」


一目でわかる。とてもいい部屋だ。さすがは勇者と言ったところか。


「とりあえずの自己紹介も終わったし、早速勇者としての適性を見せてもらおうかな」


アイラに促され、3人で庭に向かう。


「とりあえず魔法の練習からして見ようか。魔法っていうのはこう言うのね」


そう言ってアイラが右手を前に出すと……アイラの手の中に炎の球が生まれた。


「おぉ、すげぇ」


初めて目にする異能。近付いてみると、たしかに熱を感じる。


「じゃあゼクスもやって見て」


よし、やるぞ!……ってどうやんの?


「どうやったら出来るの?」


「うーん、なんというかこう…ボワァ!って感じ?」


アイラが手を動かしながら説明してくる。なるほどわからん。アイラは説明が苦手なようだ。


「魔力を魔法に変える…゛魔力変換゛は才能による所が大きいのニャ、魔力を炎に変えるイメージをしてみるのニャ」


なるほど、イメージか。よし。



右手を前に出す。目をつむって自分の魔力を炎に変換するイメージ…イメージ…

 

「無理だな」


うん。何も出ない。というか普通に生活してた俺が、今まで感じたことのない魔力をイメージするのは無理があるのではなかろうか。


「むぅーん、他の勇者様は結構スパーッと出せたりしたんだけどニャぁ…」


俺以外の勇者はどうもエリートの集まりらしい。……いやいや、劣等感を覚えるにはまだ早い。


「だ、大丈夫だよ!魔力の使い方は他にもあるから」


アイラが手をブンブンとふって、慰めてくれる。愛らしい。アイラだけに。


「例えばこうやって…」


アイラが近くに落ちていた石を拾って…そのまま握り潰した。…え?握り潰した?


「ゴリラオブゴリラ……」


驚いた俺はアイラの元に駆け寄りその腕をペタペタ触る。とても柔らかく、あんな力があるとは思え無かった。そしていい匂いがしました。


「ちょ、あんまり触らないで…」


嫌と言うよりも少し恥ずかしそうな様子のアイラ。


「うわっと、ごめん」


急いでアイラから離れる。


アイラはコホンと咳払いをしてから…


「これがもう一つの魔力の使い方である『身体強化』。魔力は普段、無意識に体から大気に流れてるんだけど、それを自分の意志で体に留めて、普段以上の力を発揮する技術だね」


なるほど、それであのか細い腕でも石を握りつぶせるようになると。


「魔力変換と身体強化。大体の人はこのどちらかに適性を持っているのニャ、ゼクス様も早速やって見るのニャ」


よし、次こそはしっかりやるぞ!!


✦✦✦✦✦


「そんなに気を落とすことはないのニャ」


今は練習を終えて、夕食を食べていた。


結果から言うと、俺には身体強化の適性もなかった。アイラは初日だからと慰めてくれたが、リープが言うには他の勇者は初めから類稀なる才能を発揮していたらしい。


「ほら、ゼクス様。これも食べるのニャ」


そう言ってリープが自分のフォークに料理をさし、俺の口元に向けてくる。


…これは世間一般に言うアーンと言うやつではないのか、それに間接キス。出会って初日の人にそんなことしていいのだろうか。


「食べないのかニャ?」


「いただきます。」


大変美味しゅうございました。異世界の食べ物が口に合うのかという疑問もあったが、それは大丈夫だった。


「ご馳走様でした」


そう言って無愛想に席を立ったのはアイルだ。


「もう部屋に戻るのかニャ?もっとゼクス様と話せばいいのに」


「特に話すような事もございませんので」


きっぱりと答えて、アイルは部屋を出て行ってしまう。


「態度悪くてごめんね。後でちゃんと言っておくから」


アイラは申し訳なさそうに謝ってくる。顔が同じでも、表情や仕草でこうも変わるのかと感心する。


「全然大丈夫。気にしてないよ」


気にしてないとは言ったが……正直少しだけ気になる。リープやアイラは気がついていないようだったが、食事中も目を合わせてはくれなかった。


この世界に来て初日。嫌われるようなことはしてないはずなんだけどなぁ


「そっか、ありがとう。それじゃ……あたしも部屋に戻るね、また明日」


そう言って、アイラも席を立つ。


「私も食器の片付けをするから、ゼクス様は部屋に戻って今日は休むのニャ」


リープは食器を重ね始める。俺の手伝おうとしたが、「客人だから」と止められてしまった。


「それじゃああとはよろしくね、おやすみ」


「おやすみなさいニャ〜」


部屋に戻ったあと、俺はすぐに眠りについた。

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