第8話『使えねえとパーティーから追放されたら実はそこそこ使える地味スキルと評価され捨てる神あれば拾う神あり。再生物語』

 わわっ!ものすごい勢いで大量のメッセージがスマホの画面を上から下に流れていく。とても目では追いきれない速さで。普段ネットで小説を書いてる人が女子高生AIにいろいろ言ってるのだろう。僕はパソコンを使ってるけど、スマホで書いている人も多いって聞くし。そう言えばスマホで打ち込むのって慣れが必要だし、上手い人は小説家になりたいとか関係なくものすごく速くスマホに文字を打ち込む。女子高生AIが返事をする前に続けて質問とかメッセージを送ることは可能である。AIが対応できないスピードってすごいと思う。ちなみに僕もそれをやってみようと思ったことがあって。結果、『あ』とか『か』とか一文字だけだったら女子高生AIが返事をする前に送ることが出来た。でもそれって『会話』ではない。僕は設定を少し変えてみる。


『小説家』、『なりたい』、『毎日』、『読んでくれない』、『読まれたい』と。


 さすがに先ほどのスピードのようなことにはならなかったけど、それでも設定したキーワードを含んだメッセージがゆっくりと時間差で送られてくる。


『毎日更新してるのに誰も読んでくれないんだよなあ。僕の作品。はあー、読まれたいなあ。書籍化とかして小説家になりたいなあ。ねえ、読んでくれないかなあ』


『小説家になりたいいいいいい!読まれないいいい!毎日更新してるのにいいいいいいい!頼む!読んでくれな!ね!ね!』


 あ、これは最初の『なりたいいいいいい』に『読まれない』に足りない『たい』が含まれてるから表示されてるんだ。本当にこのスマホは、アプリはすごい!と思いながら、僕もこのメッセージを送ってる人の気持ちが分かる。ネット小説って基本読まれない。普通に考えたらそうだ。まず今は文字離れもすごいって聞くし。漫画なら無料でだったら読んでみようかなとかなるかもしれない。でも小説となるとこれが一気に読まれなくなる。他にもネットで気軽に自作を投稿出来る環境が発達したからなのか、僕もそうだけど『小説を書いてる』と考えるとなんかカッコいい。時代はSNSだし。創作アカウントもたくさんある。いわゆるセルフプロデュース、宣伝活動とかしないとなかなか読んでもらえない。読んでもらえないのにネットへ作品をあげる虚しさはちょっと自己満足として自分を慰めるしか他に解消方法を僕は知らない。僕は『読んでくれな!』の方のメッセージをロックして返事を書き送信する。


「読んでやってもよいぞ」


「え?ホント?」


「だって読んで欲しいんでしょ?」


 木塚信夫と表示されたアニメアイコン。きっと本名なんだろうな。ペンネームかもしれないけれど。木塚信夫君から返信が来る。


「マジ?てかこれってAIじゃないの?」


「マジマジ!中の人だよーん!」


「え!ホントに!?すげえ!ホントに中の人っているの?」


「信じなさい。信じる者は救われるっていうじゃん!足を」


「うん!信じる!」


「よきよき。で、君の作品ってタイトルはどんなのかな?ペンネームは?」


「ペンネームは『眠矢(ねむや)』で主に『かけよめ』とか『なれや!』とかで書いてるんだ」


「え?『なれや!』は普通に読まれなくない?」


 ネット小説投稿サイトはたくさんあるけど『なれや!』は読み専、いわゆる書かずに読むこと専門の人が他のサイトに比べて多い。


「それが読まれないんだよおお」


「ちっと待ってくり。今確認するね」


 そして僕は自分のスマホで『なれや!』を開き検索する。『眠矢』。あ、いた。連投。


「確認したYO!タイトルは『使えねえとパーティーから追放されたら実はそこそこ使える地味スキルと評価され捨てる神あれば拾う神あり。再生物語』ってやつ?」


「そう!それ!」


 僕はちょっと笑ってしまった。いや、笑ったら失礼なのだろうけれど。いわゆるペンネーム眠矢君が書いているのは『テンプレ量産作品』だ。いや、まだ読んでないけれど。ペンネーム小春の僕は創作について語り合ってみようと思った。

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